第26話 夢の中のメッセージ
眠りについたアコは夢を見ていた。普通の夢ではなく、現在探索している遺跡の夢だ。夢の中の遺跡はまだ出来たばかりなのかピカピカで、アコはキラキラと目を輝かせる。
そうして、景気よく手を左右にリズミカルに振りながら、新築の遺跡をルンルンと軽い調子で探索していた。
「すっごーい! 何ここ色んな部屋があって面白~い!」
夢の中の遺跡には罠がないのか、どこをどう歩いても全く危険な目には遭わなかった。それが楽しくて調子よく色んな場所を訪ね歩いていると、例の毒ガスの部屋に辿り着く。興味を抱いて中に入っても、当然ドアは勝手には閉まらないし毒ガスも発生しない。ただ、やっぱり部屋の中は空っぽではあったのだけど。
部屋の真ん中まで来た彼女は、そこで額に手を当てて部屋の全景を興味深そうに眺めてみた。
「この部屋何もないな~。私だったら……」
アコは自分だったらこの何もない部屋をどう言う風にするかの妄想を膨らませる。趣味部屋にするか、応接室にするか、客間にするか……。想像の中で色んなアレンジをして楽しんでいると、そこに謎の声が侵入してくる。
この思考のノイズを彼女は最初邪魔に感じていたものの、言葉がはっきりしてきたと言う事で、ちゃんと聞き取ろうと意識を集中させてみた。
「……ロー・ドアード。ロー・ドアード……」
ちゃんと聞くと、その声はこの単語を何度も繰り返していた。まるで何かのパスワードみたいだと感じた瞬間、アコは突然目が覚める。まぶたを上げた彼女の目に映ったのは倒れているシイラの姿。
今の自分達の状態が分かったところで、アコは自分だけ目が覚めたその事実に困惑する。目が覚めたからって、身体に力が入らない事は変わらない。
このままだとまたもう一度眠ってしまう気がした彼女は、何とか最後の抵抗を試みた。夢で聞こえたあの意味深な言葉、それに賭けてみたのだ。
「ロー・ドアード!」
アコがその言葉を口にした途端、ゴゴゴ……と、何かが動く音がし始める。頑張って音のした方に顔を向けると、あの突然閉まった扉が開いていた。夢で聞いたあのパスワードは、あの扉を開けるためのものだったらしい。
密閉空間でなくなった事で、ガスの濃度は下がっていく。扉が開いた時点でガスの噴出自体も止まったのかも知れない。
とにかく、これで最悪の事態は避けられた。ガスの効果もなくなった事でアコはゆっくりと起き上がり、体を動かして調子が戻った事を確認する。
動けるようになったので、すぐに倒れているリーダーの元に向かった。彼女が背中をさすると、シイラもすぐに覚醒。
頼りになる相棒の復活に、アコはほっと胸をなでおろした。
「良かった、シイラも無事で」
「い、一体何が……?」
「あのね、夢の中で聞いた言葉を唱えたら扉が開いて、それで……」
「私はそんな夢は見てない……。アコやるじゃん!」
リーダーに褒められたアコは満面の笑みを浮かべる。会話をしながら徐々に体の調子を取り戻したシイラは、ここまでの経緯からある事実に気が付いた。
「あの毒ガスって殺人ガスじゃなかったんだ……」
「だよね、結局眠くなっただけだった」
「一体何がしたかったんだろ?」
「でもあのまま眠らされてたら、結局は死んじゃってたんじゃない?」
部屋を出た2人はさっきのガス部屋についての考察を熱心に討論しながら遺跡内を歩いていく。話は白熱し、時に振り返りながら発言するリーダーは前をよく見ていなかった。そうやって歩いていると、彼女達ははぐれていた残りのメンバーと再開する。
脇道から現れた彼女と出会い頭にぶつかりそうになり、シイラは思わずのけぞった。
「わわっ!」
「えっ? シイラ?」
「あ、リル! 良かった、無事で!」
3人はここで無事に会えた事を喜び合う。アコはすぐに駆け寄るとリルの両手を握りブンブンと振り回した。その泣きそうな顔を見たリルは少し呆れた顔をする。
「全く、勝手にいなくなるなんて」
「それは……トラップに引っかかちゃって」
「そうだ! 聞いてよ、アコったらね……」
トラップの話が出たと言う事で、シイラはリルにアコのトラップに引っかかりまくり体質を身振り手振りを加えて熱っぽく説明した。その1人独演会を耳にしたアコは、自分のダメっぷりを聞かせまいと大声を出したり手を大袈裟に振ってごまかそうとする。
その妨害虚しく、リルはうんうんとうなずきながら、その話を全部聞いてしまった。そうして、ジト目でアコ達を見つめる。
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