第25話 見えない罠の部屋
すっかり自信をなくしたアコは、うつむき加減でトボトボとリーダーのもとに戻ろうとした。この時、床のパネル的なものを踏んでしまい、彼女はその違和感を苦笑いを浮かべながら報告する。
「な、何か踏んじゃったかも……」
「えぇ……」
ここまで来るとシイラももうあきらめたような力の抜けた返事を返すので精一杯になっていた。そうして、次に襲ってくるであろうトラップに警戒して身構える。
天井が落ちてくるのか、落とし穴が開くのか、矢が飛んでくるのか、それとも水攻めか、まだ全く経験したことのない何かなのか――。
警戒する2人はストレスで消耗していく。すぐに変化がないと言う事で、分かりやすいトラップでない事は明白だ。
油断を誘う系なのか、罠自体が壊れて動かないのか、それとも――。
しばらく何の変化もないと思っていたところで、シイラは自身の感覚の異常に気付く。手が痺れ始めて、視界も狭くなってきていたのだ。
「これ、毒ガスだ!」
「ええっ、嘘でしょ?」
罠の種類が判明した事で、アコはプチパニックになった。水攻めの時と状況は似ているものの、この何もない部屋では逃げようがないからだ。
このままガスが充満して2人共死ぬ未来を想像してしまい、彼女は今にも発狂してしまいそうになってしまっていた。
「やめてー! まだ死にちゃくないー!」
「アコ、落ち着いて!」
「いやだって毒ガスだよ! 逃げられないんだよ! これ絶対死ぬやつ!」
アコは頭を押さえて悶え苦しむ。そこには実際に苦しむ以上に、イメージで思い込んで余計に酷く感じていると言う部分も大きかった。逆にシイラはとても冷静で、体の不調もそこまで感じてはいないようだ。
実際、毒の濃度もまだそこまで濃くはないのだろう。すぐに殺しに来ないところから、彼女はどこかにこの毒を止める仕組みがあるとにらみ、行動を開始する。
「ちょ、シイラさん? 何歩き回ってるの? もう何をしても無駄なんだよー!」
「あきらめたアコはずっとそこにしゃがんでな! 私はこんなところで死にたくないの!」
「助かるの? ガスを止められるの?」
「分かんないけど、可能性はあるはず。生き残りたいなら手伝って!」
シイラの言葉に希望を見出したアコは、すぐには彼女を手伝う事にした。ガスはゆっくりと濃度を上げていく。何らかの仕組みがあるとしても、早く見つけないといずれ待っているのは悲惨な未来だ。
2人は必死に部屋の床や壁を調べていく。僅かな違和感でもあればそこに賭けるしかない。もしかしたら逆に悪化する結果になるのかもだけど、今の2人には今以上の最悪を想定する余裕はなかった。
壁をベタベタベタと触りまくり、床がガシガシと踏みまくる。それは客観的に見ればすごく滑稽な光景だろう。だとしても、今の2人にはもうそれ以外の行動をする事を思い浮かべられなかったのだ。
「どこかに、どこかに止めるスイッチがあるはずだよ」
「シイラ、それマジよね? 嘘じゃないよね?」
2人は必死になってガスの停止スイッチ的なものを探すものの、一向にそれは見つからない。気持ちだけが焦る中、2人の身体についに異変が。
ガスの影響なのか、段々眠くなってきたのだ。襲い来る睡魔に最初は耐えていたものの、ほぼ同じタイミングで2人はバタリと床に倒れ込む。
全身の力が抜ける感覚と、起きているのが辛くなる感覚にアコもシイラも抗えない。
「うう、眠い。眠いよシイラ……」
「だ、ダメだよアコ、ここで……眠ったら……」
2人の倒れた位置が近かったなら、お互いにつねりあったりして耐えられたかも知れない。
けれど、残念ながら別々に部屋を調べていたせいで、かなり離れた場所で倒れてしまっていたのだ。言葉をかわす以外に出来る事がなかったのもあって、やがてその抵抗は虚しい努力に終わる。
「シ、シイラ……ゴメ……後はよろ……」
「寝るなーっ!」
シイラの必死の叫びも届く事なく、アコは睡魔に負けてしまう。共闘していた仲間が離脱したと言う事で、シイラの気力も一気に尽きてしまった。
「う、私も、もう……」
こうして毒ガスによって2人共意識を失ってしまう。後には静寂だけがガスの充満する部屋を支配するばかり――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます