第22話 水晶の柱の部屋

 近付けば近付くほど、探していた音は大きく聞こえてくる。部屋の外まで響いていた音は、このクリスタルの柱から出ていた事に間違いはなさそうだった。

 柱に魅せられて歩いていく内に、彼女は触れる位置にまで柱に近付いていた。至近距離まで来たと言う事で、アコは改めてこのクリスタルの柱を見上げる。巨木のような太さ、長さは遺跡の階層を貫いてどこまで伸びているのか分からない。


「こんなものを作る技術が、大昔にあっただなんて……」


 音の正体は分からないまま、彼女は好奇心の赴くままに柱に優しく手を添える。それはごく自然な行為でもあった。見慣れない面白そうなものがあったら、触ってみたくなるのは当然の流れだろう。


 たとえそれが、罠だったとしても――。


「この感覚、とっても不思議。そうして、とっても感動的!」


 アコが柱に触れ、その感動に打ち震えていたその時だった。この部屋の天井部分からいきなり水が放出され始めた。そう、この部屋は水攻め専用の大掛かりなトラップ部屋。彼女はまんまとこのトラップに引っかかってしまったのだ。

 どんどん溜まっていく水に、泳ぎの得意でない彼女はプチパニックになる。


「う、上から水ーッ! な、何で? なんで今でもこんな大掛かりなトラップが生きてるのーっ?」


 どれだけ理不尽だと叫んでも状況は何も変わらない。騒いでいる間にも水はどんどん溜まっていく。泳げない彼女は必死でクリスタルの柱に掴まった。つるつるした柱に掴める所はなかったものの、触れるものがあると言うのはとても心強かったようだ。

 容赦なく流れる落ちる水は広い部屋を満たし、水かさを容赦なく上げていく。


 やがて水量はアコの背の高さを超えた。何とか頑張って浮き続けながら、彼女は流れ落ちる水が落ち着くのを待つ。もしこれが侵入者を殺すためのトラップなのだとしたら、部屋を満たしきるまで水が止まる事はないはずではあるのだけれど。


「このままじゃ、私死んじゃう……どうしてこんな事に……」


 すぐに思いつく自分の最期のイメージにアコは混乱する。彼女、今までのダンジョンの探索でも様々なトラップに引っかかった経験はあるものの、死に直結するような重いヤツに遭遇したのは今回が初めてだった。

 しかもこのトラップにかかったのは自分ひとり。自分で何とかするしかない。仲間を頼れないのだ。


 その究極の緊張状態の中、この状況を何とか回避しようと彼女は柱をベタベタと触りまくる。部屋の真ん中にこれ見よがしに立っているこの柱に、何か水を止めるヒントがあるに違いないと考えたのだ。


「絶対にここから脱出するんだ。こんなところで私の人生が終わる訳ない!」


 生きてこの部屋から脱出するために必死で柱を触って調べまくっていると、ある程度の高さまで来た時に柱にくぼみがあり、そこにちょうど手が収まる。まるで最初からそこに手を重ねる事が決まっていたみたいに。

 手が収まった途端に柱の内側が光りだし、柱自体も鳴動を始める。この突然の出来事にアコは驚いて目を見張った。


「一体何が……きゃあっ!」


 柱が起動したと同時に、彼女の身体に何かのエネルギーが流れ込む。次に身体が発光し始めた。そのまぶしさにまぶたを閉じた次の瞬間、軽い浮遊感を覚え、次にまぶたを上げた時にはアコはもう別の場所にいた。空間転移、ワープをしていたのだ。

 手形に手を合わせた事が正解だったのだと、彼女は改めて胸をなでおろした。


 で、一体どんな場所に転移したのかと言うと――。



「くそっ! 一体何が起こってんだよ!」


 同じ場所で叫んでいたのは聞き覚えのある声。その声の聞こえた方にアコが顔を向けると、見覚えのあるシルエットが何かと戦っている姿が目に飛び込んできた。

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