第21話 迷いまくるアコ
しばらくうつ伏せになって痛みが収まるのを待ったアコは、助けが来ない事から自分の状況を把握。動けるようになった時点ですぐに立ち上がる。そうして顔をぐるっと動かして現在地の確認した。
まずは上空の確認。見上げると落ちてきた穴は塞がっている。次に現在地の把握。顔を左右に動かしたところ、その道の作りはさっき落ちてきた遺跡一階とほぼ変わらないような感じだった。特にモンスターが現れそうな不穏な雰囲気も感じられない。そもそもこの遺跡内、生物の気配は入った時点から全く感じられないのだ。
それでようやく少し安心した彼女は、仲間達と合流するために歩き出した。どこかで必ず合流出来ると信じて――。
「私はこの遺跡にお宝の匂いを嗅ぎつけたんだ。正しいルートを選べばきっとお宝に辿り着けるはずだったのにな……」
一人で不安なのもあって、つい独り言をブツブツと喋りながらアコは遺跡内通路を歩いていく。部屋の作りがどこまで同じか分からないものの、とにかく同じだと信じてマッピングしながら進んでいた。
生き物の気配がしないと言う事は、静かな環境の中で自分の足音だけが耳に届くと言う事。自分の出す音しか聞こえないと言うのは、精神的なプレッシャーをとても強く感じてしまう。
この重い雰囲気の中、彼女は何度も同じ道をぐるぐると彷徨ってしまう罠にしれっと引っかかってしまっていたのだった。
「リルー! シイラー!」
ずっと1人で心細くなった彼女は仲間の名前を歩きながら叫び続ける。別の階にいるのだから届く訳がないのを知りながら。それでも叫び続けなければ心が折れてしまうのだろう。
静かな遺跡に自分の叫び声だけが反射する。ただそれだけの事でも、彼女はギリギリで正気を保っていられたのだった。
「リ……」
ずっと叫び続けて声も枯れようかと言ったその時だった。初めて自分の声以外の音をアコの耳は捉える。どこか遠くで何らかの、初めて聞く不思議な音が聞こえてくる。その現象は彼女の好奇心を大いに刺激した。
「え? 何? この音……。もしかして出口?」
ぐるぐる遺跡内を探索したところで、今の所脱出の手がかりも何もない。この変化は吉兆に違いないと感じたアコは、期待に胸を膨らませてその場所へと向かう。
罠の可能性など微塵も考えはしなかった。そんな事を考える余裕すらなかったのかも知れない。
興奮しながら音の出処を辿っていくと、やがてその音の正体へと続く扉に到着する。どうやらその音はこの扉の向こうから聞こえてきているようだ。扉自体は彼女もよく知っている遺跡でよく見るデザインで、7~800年前にものだと推測された。
つまり、この遺跡もそのくらいの時代に作られた可能性が高いのだろう。
扉の前でずっと立っていても埒が明かないと、アコは意を決して押し開ける。何百年も前に作られたにしては意外なほど軽く、呆気なくその扉は開かれた。
その先にあった光景に彼女は思わず目を丸くする。中の部屋は広く、小さな家一軒分くらいの広さはあるだろうか。部屋の中央には大きなクリスタルの柱。
これがまた驚くほどに透き通っていて、遺跡が出来た当時のきらびやかさを維持している。何百年前に作られたとはとても思えない程の完成度を見事に保っていた。
「うわぁ……。すごい……」
クリスタルの見事さに吸い寄せられるように彼女は部屋の中に入っていく。
しかし次の瞬間、彼女の背後で衝撃が走った。開けたはずの扉が自動的に閉まってしまったのだ。その閉まる時のバタンと言う大きな音を耳にして、彼女はピョンと小さく飛び上がる。
すぐに振り返ったアコはこの不自然な現象を前に、嫌な予感を覚えるのだった。
「嘘でしょ?」
事実上の部屋への閉じ込めに、何らかの意図があるのは間違いない。この部屋自体が大掛かりなトラップなのかも知れない。彼女は胸の奥から湧き上がるものが興奮から不安になるのをひしひしと感じていた。
精神的な不調から乱れていた呼吸を戻そうと何度も深呼吸を繰り返したアコは、もう一度振り返り直して目の前にある巨大な柱に向かって歩き出す。
この部屋には他に何もない。部屋の正体を知るためにはもはやこの賭けに乗るしかなくなっていた。
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