第20話 息の合わないパーティ

 そこはパッと見ただの洞窟にしか見えない一見地味な見た目。その入口に立った時、考古学マニアが額に手を当ててよく見えないその入口の奥を見定める。


「ひゅー、ここかぁ。入り口は洞窟っぽいけど、こう言うところの方が実はすごかったりするんだよね」

「やっぱりシイラもそう思うよね。私も同じだよ」

「早速入りましょう! ダンジョンが私を呼んでます!」

「ちょ、リル、待って! リーダーは私!」


 興奮がマックスになっていたリルがフライング気味に洞窟に入ってしまったので、残りの2人も急いで後を追った。先行する彼女にはすぐに合流出来たものの、洞窟部分は遺跡の入口付近だけで、少し奥に入ると周りはまるっきり人工物に置き換わっていた。


「私、こんな遺跡は初めて……」

「だね。考古学マニアの血が騒ぐよ」


 アコとシイラはすぐに攻略よりも遺跡自体に目が行ってしまう。未知の構造物や未知の壁画、未知の文字など、マニアにはたまらない情報がこの遺跡にはてんこ盛りだったのだ。


「わお! これは……まだ知られていない失われた古代文字!」

「こっちもすごいよ! こんな遺物初めて見た。古代の祭祀の道具か何かかな?」

「ちょ、こっちこっち、何これちょっと有り得ない……」


 考古学マニア2人が奥に進むより目の前の不思議の探求に夢中になってしまったので、冒険マニアのリルは機嫌が悪くなる。


「まだ入ってちょっとじゃないですか! もっと奥にはきっともっとすごいお宝があるはずです! 早く進みましょう!」

「あ、ごめん、リルの言う通りだね」


 その声に正気に戻ったアコは、後ろ髪を引かれる思いで洞窟探索を再開させる。彼女の知識とその野生じみた勘によって、特に大きなトラブルもなく遺跡の奥深くへとどんどん足を踏み入れていく。

 ただし、その攻略が効率重視だったため、遺跡内を隅々まで知り尽くしたいアコはこの進み方に少し不満も覚えてしまうのだった。


「ねぇ、ちょっと他の道も行ってみようよ。それが冒険でしょ?」

「何言ってるんです! 攻略は効率が大事でしょう。何が起こるか分からないんですから」

「むー、そうかもだけど……。シイラはどう思う? あれ? シイラ?」


 言論で不利になった彼女が自分の味方を得ようと振り向くと、そこに考古学マニアの彼女はいなかった。どうやら途中で魅力的な何かを見つけてしまい、そこではぐれてしまったようだ。この状況に2人は戦慄を覚える。


「ど、どうしよう、シイラがいないよ!」

「まずは落ち着きましょう。いつからいなくなったか分かりますか?」

「分かんない。私はずっとリルの背中ばかり見てたし、シイラも付いてきているものとばかり……」

「とにかく探しましょう。きっとまだそこまで離れていないはず……」


 こうして2人ははぐれた仲間を見つけるために一旦探索を切り上げ、来た道を引き返す。途中で道が二手に分かれたところで、効率を考えた2人は二手に別れて別々に探す事にした。


「私は今までの道をそのまま探してみるので、アコはそっちの分かれ道をお願いします!」

「了解!」


 いつしかこの冒険のリーダーはアコではなくリルに変わっていた。冒険に関しては彼女の方に一日の長がある以上仕方がない。リルの指示で念願の別れ道側の冒険が出来たアコは、少し興奮気味にその道の先へと進む。

 この直後、彼女は床の色違い部分に気付かず、ついその部分を踏み込んでしまう。


「ん? 何、さっきの?」


 右足に感じた違和感にアコが首を傾げていると、彼女の足元の床がパカッと開いた。落とし穴のトラップだ! 

 このオーソドックスなトラップに引っかかった彼女は、成す術もなくそのまま真下へと落っこちていった。


「ひゃあああ~っ!」


 幸いな事に落ちた先に凶悪なトラップはなく、ただひとつ下の階に落下しただけで再起不能なダメージを負う事はなかった。どうやらこの罠に侵入者絶対殺す的な悪意はなさそうだ。


「ぎゃん!」


 自由落下して床に思いっきり尻餅をついたアコは、その痛さに叫び声を上げる。そうしてそのまましばらく動けなかった。

 割と大声で叫んだにも関わらず、まだ近くにいたはずのリルが気付かなかったところを見ると、音を吸収する仕組みか何かがあるのかも知れない。


 彼女が落ちたひとつ下のエリアもまた真っ暗と言う訳ではなく、魔法的な明かりで周辺の視界は保たれている。

 それは、この遺跡が長い年月を経てもなお稼働している証でもあった。


「あいててて……」

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