第14話 酒場での乱闘
「君の腕は認めるけど、冒険者をしていた方がいい」
「今のギルドはソロ禁止なんだよ。俺はソロで動きたいんだ、今は……」
「仲間もいいもんだぜ」
彼はアレサを説得しようとしていた。その意図が読めて若干冷静になった彼女は、料理を酒で流し込みながら自分の望みを口にする。
「俺はこの仕事がいい。自由があるからな」
「何かあったのか? 裏切られたとか?」
「そうじゃないけど……」
「人間相手の賞金稼ぎってのは後味が悪いもんだ。君が心を病むところは見たくない」
セランはアレサがこの仕事を続けようとしている事が気になったしまったらしい。それが本気だとしたならば、前の仕事で彼女を出し抜いたのも変に成功体験を作ってこの仕事に魅力を感じさせないようにしたかったのかもと言うパターンも有り得るだろう。
ただし、そんな気遣いにすぐに気付けるほど、アレサは繊細な心の持ち主ではなかった。彼女は賞金稼ぎと言う仕事にまだ希望を持っていたのだ。
カチャカチャとナイフとフォークを動かしながら、アレサはニイッと笑顔を見せる。
「心配してくれてるのか? でも大丈夫だ。悪党しか狙わないからな」
「悪党だって人間だ。君はまだ人は殺した事はないだろ?」
「マフィアのボスを殺すのに良心が痛むとは思えないが」
「ちょ、ここでその話は……」
調子に乗っていた彼女はつい今の仕事のことをポロッと口にしてしまう。その一言が酒場内を一気に静まらせた。同席していたセランまでもが動揺している。
どうやらこの酒場はそのマフィアと深い関係にある場所らしい。すぐにお店の奥から屈強な男達がぞろぞろと2人に周りを取り囲むようにやって来た、その数、15人から20人くらい。店の奥には更に人がいるのかも知れない。
突然漂い始めたこの独自の嫌な雰囲気に、他の客は次々と帰り始めた。
2人の前に集まったマフィア関係者と思わしき男共の中で、一際大きいスキンヘッドの片目眼帯男がドンと勢いよくテーブルに手をつく。
「ちょっとそこの2人、詳しく話を聞かせてもらおうか? 今更冗談でしたは通じねぇぜ?」
この大男の挑発にアレサは食事の手を止める。とは言ってもほとんど食べ終わってはいたのだけれど。そうして男の顔を眺めながら挑戦的な顔でにらみ返すと、腰の剣に手をかける。
「へぇ、こんな店にもいたのか……」
「おい、場所を考えろ」
セランは当然ながらこの騒ぎを止めようとした。けれど、一度火のついた爆弾は爆発するまで止まらない。彼の制止の言葉がアレサには届く事はなかった。
「売られた喧嘩は買ってやるぜ!」
「ああもう……仕方ない」
彼女の暴走が止まらない事を悟ったセランは仕方なく、自分の所持している武器に手をかける。2人に戦闘の意志ありと判断した大男達もすぐに襲いかかってきた。
「五体満足では帰れない事を覚悟するんだなァ!」
素早く剣を抜いたアレサはまずは大男包囲網から素早く脱出して、動きにくい娼婦の服を脱ぎ捨てる。その下にはいつもの動きやすい服が隠されていた。鎧的な物を身に着けていないのは、敵の攻撃には当たらないと言う自信の表れでもあるのだろう。
いつもの戦闘スタイルになったところで、アレサは早速男達を倒しにかかる。その剣技は無骨な男達の急所を突き、一気に3人ほど倒してしまった。セランもまた銃を取り出して大男達を撃ち倒していく。
けれど、いかんせんこの酒場は2人にとってアウェー中のアウェー。襲ってくる男達の数は倒しても減るどころか増えるばかり。時間が経てば経つほど不利になっていく。
共闘したばかりなのにすぐに息の合った2人は男達の攻撃をかわしつつ、現状を打破するためにはどうすればいいか考えながらお互いの様子を確認し合う。
青龍刀のような大きな剣を持った大男を倒したセランは、そのタイミングでアレサに目で合図を送った。
「俺が囮になるから逃げろ!」
「礼は言わないからな」
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