第13話 次のターゲットはマフィアのボス

 二度の失敗を経て、アレサはもう自分に出来そうな仕事を選ぶと言う方法を取るのを止める。この調子だと、次の仕事でも大きくポカをしてしまいそうだと判断したのだ。

 次に彼女が取った行動は、自分でもかなり無理めな条件の仕事を選ぶと言うもの。そこでターゲットに選んだのが、とあるマフィアのボスの始末だった。


 前の2件とは明らかに達成へのハードルが違う。成功報酬も高いものの、失敗時の死の危険度も高く、今までに何人もの賞金稼ぎが命を落としていた。まさに命がけの仕事と言って間違いない。

 生か死か。そんなシビアな状況を前に、アレサは興奮に打ち震えるのだった。


 マフィアのボスを狙うに当たって、流石の彼女も考える。今までみたいな正面突破は犬死にするだけだろう。そこで、まずはセオリー通りに絡め出て攻める事にした。

 自分の武器を最大限に活かす、そう、娼婦に化けて寝首をかく方法だ。


 アレサは早速水商売な感じのメイクと服を用意する。全て自己流のために、そこはクオリティ的におままごとレベルになってしまうものの、全て1人でこなそうと思っているのだから仕方がなかった。

 それでも周りで見かける水商売の女達よりは魅力的になっているものと、アレサは自分の技術に自信を持っていた。


 しっかり化けた彼女は他の娼婦と同じように道端でそれっぽく振る舞うものの、アレサに声をかける者は誰一人としていない。やはりこの世界でも付け焼き刃では通用しないようだ。

 他の娼婦に次々と声がかかる中、一晩中立っていて全く声をかけられなかった彼女は、絶望感に打ちのめされてしまう。


 それでも、たったの一日であきらめる訳には行かないと次の日もアレサは夜の街に立つ。実際、娼婦がどんな事をするのか彼女は何も知らないのに。声をかけられなかったのはある意味幸運だったのに。

 その身に宿るちっぽけなプライドだけが彼女を動かし続けていた。


 そうして立ち続けて4日目。もうこんな無駄な事はやめようと作戦変更を考え始めてたその矢先だった。


「よお、何やってんだ?」

「お、お前っ!」


 初めて声をかけてきたその相手はアレサもよく知っている、この間の件で彼女を出し抜いた男、セラン。彼はなんちゃって娼婦姿のアレサを見て、顔を背けながらクスクスと声を殺して笑う。

 その仕草が馬鹿にされているようにも見えて、彼女は頬を膨らませた。


「な、何がおかしい! ていうかさっさと行けよ! 俺はお前に用はないんだ」

「アレサちゃん、君、それで声をかけられようってのはちょっと無理だよ。すぐに気付かなかったのかい?」

「うるさいな! 喧嘩売ってんのか!」

「まぁまぁ、とりあえず今日はさ、俺と飲まないか? 奢るよ」


 最初は馬鹿にされて怒り心頭だったアレサも、彼の奢ると言う言葉に心を動かされる。最近は全く収入がなくてひもじい生活をしていたのだ。

 前回出し抜かれたのもあって、バカスカ食って困らせてやろうと言う嫌がらせを思いついた彼女はセランの話の乗っかる事にする。


 2人が向かったのは割と洒落た雰囲気の酒場。普段飲まないアレサはこう言った場所も今回が初体験だった。小さめのテーブルに向かい合って座ったところで、彼女は不安そうな顔を覗かせる。


「俺、浮いてないか?」

「大丈夫だよ。当たり前って顔してりゃあいい」

「そ、そんなもんなのか?」


 セランは酒場での振る舞い方をアレサにレクチャーする。初めての場所で不安になっていた彼女は、その話を1から10まで素直にうなずいて聞いていた。

 その内に彼に注文を任せていたメニューがテーブルに並び、洒落た食事の時間が始まる。アレサは名前の知らないお酒を飲みながら、名前の知らない料理を口に運んだ。初めて口にするそれらの料理はとても刺激的で美味しく、つい無言になってしまう。


「今の仕事さ、向いてないから止めときなよ」

「な、何をっ!」


 夢中になって食べているところで、セランが冷水を浴びせかけてきた。当然ながら彼女は速攻で気を悪くする。怒りはしたものの、料理が美味しくて反論は食べ終えてからにしようと、アレサは更に食事のスピードを上げた。

 その様子を見ながら、彼はマジ顔になって話を続ける。

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