第11話 次に狙うは地元の小悪党

 どうやら、用心棒は懸賞金がかけられているのを知って影武者を用意していたらしい。別人だと金は払えないと、依頼主は不機嫌そうに帰っていった。

 こうして正体が分かったところで、偽物は呆気なく開放される。裏ギルドの事を喋らないと誓わせて、その後はどこかへと消えていった。


 賞金がもらえないと言う事でアレサはショックを受け、この賞金首を追いかけるのを勢い任せでキャンセルする。


「あーもう気分悪い! これはもう止め!」



 そうして、次に彼女が目をつけたのは地元の小悪党デラスだった。運良くその依頼を目にしたアレサは、にやりと笑みを浮かべる。


「お、これなら丁度いいかも」


 早速この小悪党を捕まえるために、彼女は裏ギルドを出て行動を開始する。前回のように別人を捕まえてしまう可能性も考えて情報集めを念入りにしようと、まずはそう言う情報が集まりそうな場所へと向かう。


 その場所とはお約束の酒場。意外と場末の酒場に情報通がいたりするものだと言う話を小耳に挟んだ事のある彼女は、そのセオリーに乗っ取って怪しげでそう言う人物が集まりそうな雰囲気を醸し出す酒場へと足を向ける。

 地元には酒場は数件しかなく、選ぶと言うほどでもなかったのだけれど。


「うん、ここなら適当に古いし、裏事情を知っている常連とかもいそうだ」


 地元で一番歴史の古い酒場の前まで来たアレサはそうつぶやくと、勢いに任せてその古びた扉を開けた。酒場はいかにもな雰囲気で、ガラの悪そうな男も沢山。若い女性客は彼女1人だけと言うアウェイ感満載の場所だった。

 酒場内は酒臭いし、タバコくさいし、入った途端に全員からジロリと見られるしで、メンタルが弱ければその時点で回れ右する事だろう。


 けれどそこはソロで勝負をかける女。重いプレッシャーをはねのけて、まずはカウンター席へと向かう。


「マスター、ここに情報通の客はいる?」

「嬢ちゃん、悪いが君はここにいるべきじゃない」

「俺は情報が欲しいだけだ」

「生憎客の事は詮索しないんでね……」


 マスターに聞いても埒が明かないと判断したアレサは、カウンターから体を捻って客席に顔を向けると、大きく息を吸い込む。


「この中にデラスの情報を持っている者はいないか!」

「いたらどうだって言うんだ? 教えてくれってか?」

「そうだ! 俺はヤツの首を取りに来た!」


 彼女が自分の目的を口にした途端、酒場は大きな笑い声に包まれた。その様子から誰も本気にはしていない事がうかがわれる。

 あちこちからからかうヤジが届く中、ビール腹のいかにも人生落伍者のような無精髭の男がアレサの隣の席に座った。


「おめぇ、それ本気で言ってんのか?」

「当然だ。俺はそのためにここに来た」

「俺はこの街に長いし、色々とヤバい話も知ってる。どうだ、勝負しないか? 勝ったら俺の知っている事を話してやる」

「分かった。で、何の勝負をするんだ?」


 彼女が勝負に乗り気になると、男はいやらしく口角を上げる。酒場での勝負と言えば飲み比べだと、すぐに2人の前にジョッキが並べられた。


「嬢ちゃん、いける口か?」

「さあてね」


 正直、アレサは飲酒経験はほとんどない。祭りの儀式などで少し口に含む経験をした事がある程度だ。だから飲めるかどうかも知らないし、意外と飲めるかも知れないと思っているところもあった。この勝負に勝たないと情報は得られないし、逃げると言う選択肢が最初からなかったと言うのもある。

 そのため、彼女は必要以上に強がって見せていた。


「じゃあ行くぞ」

「いい勝負をしようぜ」


 こうして男との飲み勝負が始まる。ジョッキ一杯の酒を一気に飲み始めた彼女は、その勢いで潰れてしまった。そう、全く勝負にならなかったのだ。

 男はその後も満足するまで飲み続け、豪快に笑い、酒代をアレサのツケにして帰っていった。その様子からみて、最初からたかりに来ただけなのだろう。


「おい、大丈夫か?」

「んあ……?」


 カウンターに突っ伏した彼女を起こしたのは、一見誠実そうに見える青年だった。起こされたのは閉店間際の夜の遅い時間帯。もう酒場には青年とアレサの2人しか残っていなかった。


「全く、見てらんなかったぜ。飲めない癖に無茶するなよ」

「俺は……1人でもやれるって証明したかったんだよ……。デラスを捕まえれば……」

「まぁ落ち着けって。その情報なら俺も持ってる、知りたいか?」

「本当か? 頼むぜ……」


 こうして彼女はその青年、セランから棚ぼた式に情報を入手し、デラスの本拠地へと向かう。ぐっすり眠ってしまっていたのもあって、真夜中にも関わらず気合は十分だった。


 そのアジトは最近建てられたばかりの成金趣味のちょっとした邸宅だ。何故セランがそんな情報を持っていたのか、本来なら怪しむべきなのだろう。

 けれど、手柄を立てる事だけしか頭になかったアレサは、全く怪しまずに素直に彼の言葉を信じ切っていた。

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