第10話 賞金首の用心棒

 アレサが最初に目をつけたのは、かなり評判の悪そうな用心棒。人相も悪いし、小悪党だし、殺しても生きたまま依頼主に突き出してもいいしと条件がゆるゆると言うのも決め手だった。

 こうしてターゲットも決まったと言う事で、早速アポなしでその用心棒がいるとされる建物へと向かう。


「情報が正しければあそこにいるはず……」


 彼女は腰の剣をいつでも抜けるようにと気持ちを高ぶらせながら、用心棒のアジトへと近付いた。流石に狙われている自覚があるのか、用心棒の取り巻きが建物の一階にたむろしている。人数は20人程だろうか。どいつもこいつも街のゴロツキのようで全員ガラが悪そうだ。

 ただし、数は多くてもその質はそれなりで、武芸に秀でた本物はいそうになかった。単体ならまだギルドの試験相手の方がまだ実力は上だろうと思われる。


「チッ、雑魚ばかりか。鍛錬にもならないな……」


 ゴロツキ共のレベルに失望したアレサは躊躇なく建物の入口を蹴り飛ばして乱入する。この突然の来客に場は一瞬で騒然となった。

 こんな乱暴な入り方をする相手が用心棒への客な訳がないと、取り巻き達は一斉に彼女に向かって殺気を飛ばす。


「何だてめぇ!」

「テメェらのボスを倒しにきたぜ」

「ざけんな! やっちまえ!」


 部屋にいた20人は一斉にアレサに向かって襲いかかる。こう言う襲撃に慣れているのか、その動きは意外と統制が取れていた。

 いきなり斬りかかるヤツ、補助魔法を使うヤツ、飛び道具を使うヤツ、殴りかかってくるヤツ、ケリを入れようとするヤツ。その攻撃方法もまた中々にバラエティに富んでいる。


 しかし、惜しむらくはそのどれもが素人レベルと言う事。おそらく実戦経験のない者がほとんどなのだろう。注意深く観察していれば意外と隙だらけだった。


「ぐふぅっ!」

「うぐっ!」

「ぐおおおっ!」


 アレサは舞を舞うような華麗な剣捌きと体捌きで、襲ってくるゴロツキ共を次々に床に転がしていく。ものの数秒でその数を半分に減らしていた。


「手応えがないぞ! 本気で来な!」

「ひぃぃ~!」


 彼女の実力を目の当たりにした用心棒の部下達は恐れをなして我先にと逃げ出していく。そいつらの後ろ姿を見ながら、彼女は失望したようにため息を吐き出した。


「やっぱ雑魚は雑魚だな……」


 こうして障害もなくなって、彼女は一旦剣を鞘に収める。そうして一応警戒をしながら、賞金首のいるであろう建物の二階の部屋へと向かった。そこでもドアを蹴り飛ばして、その勢いでアレサは用心棒と向き合う。


「招かれざる客が来てやったぜ!」

「誰だ、お前は……」


 その場にいたのは確かにポスターに書かれていた人物像と同じ顔をしたガタイのいい大男。賞金首のターゲットになるだけあって、それなりの修羅場もくぐっていそうな雰囲気を醸し出していた。


「下の騒ぎはお前が原因か」

「ああ、全く、腕慣らしにもならなかったがな」

「俺はそうはいかんぞ」

「そう……願いたいねっ!」


 こうして用心棒とアレサの一騎打ちが始まった。流石に一階の雑魚よりは手応えがあったものの、剣の技も動きの機敏さも彼女には物足りなく感じるレベルだった。


「この程度か?」

「うっせぇ! 返り討ちにしてくれる!」


 挑発を受けた用心棒は渾身の突きをアレサに向かって打ち込んできた。ただ、その動きはあまりにもバレバレで、逆に彼女はカウンターで用心棒の肩を貫いた。


「いてぇぇぇぇ!」

「殺さないでおいてやるよ。少しは楽しませてくれた礼だ」

「クソ、裏ギルドの回し者かァ!」


 アレサは用心棒を素早く拘束すると、裏ギルドにまで連れていく。ここで依頼主に用心棒を引き渡せば契約成立だ。捕まえた用心棒は施設内の独房に収監された。


「お手柄だったわねぇ。ご苦労様」


 受付の男はそう言って気持ち悪く体をくねらせる。依頼主が来るまで時間が合ったので、彼女は酒場で空腹を満たしたのだった。


「ま、安い仕事だったし、手応えのないのも仕方がないか……」


 安いパンとスープで胃袋を満たしながら、今回の仕事内容をアレサは反芻する。1階の雑魚はともかく、2階の用心棒の手応えのなさに少し違和感を覚えたりもしていた。


 依頼主は次の日に現れた。見た目が小金持ちっぽい身なりの小太りの男だ。その彼はかつて用心棒に仕事を頼み、法外な金をせびり取られ、更にその後も何かある度にイチャモンを付けられては金をむしり取られていた被害者らしい。

 独自の癖のある歩き方で独房までやって来て、そこにいた用心棒を確認した彼は一言。


「こいつは違う! 偽物だ!」

「ええっ?」

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