第9話 裏ギルド
「アレサ、久しぶり。元気にしてた?」
「ま、まぁな」
まさか、ここで顔見知りに合うとは思っていなかった彼女は思わず顔をそらす。
「ここに来たって事は仕事探してるんでしょ? また一緒にやろうよ」
「い、今はソロで自分の力を試してみたいんだ」
知り合いはアレサと共に冒険をしていた元仲間だった。この時は話しかけた1人だけだったものの、やがてアレサの元仲間達が次々とギルドに入ってくる。
最初に話しかけてきた魔法使いに続いて、戦士と神官。オーソドックスな冒険者のパーティだ。その中でも少しチャラそうな長身の戦士がずいっと彼女の前に身を乗りだすようにやってくる。
「あれ? アレサじゃん。元気だった?」
「あ、ああ……」
「僕またレベルが上ったんだよ。もう君にも負けないかな。で、本当にソロでやってくつもり?」
「当然だ。だから今は関わらないで欲しい」
アレサはこの戦士が苦手らしく、目を合わせずに淡々と対応する。そこで神官の少女もアレサに気付いて近付いてきた。
「お、お久しぶりです。アレサさん」
「ミリアも元気そうだな」
「当然です! 鍛えられましたもの! もう一緒に冒険は出来ないのですか?」
「ああ、悪いな。今は自分の本当の力を知りたいんだ」
かつての仲間達に色々と言われるものの、アレサの決意は固く、誰もその思いを変える事は出来なかった。こうして、彼女は元仲間達からの応援を受けながらギルドを後にする。その後姿を見送った後、彼らは話を始めた。
「アレサ、行っちゃったね」
「なぁに、今どきソロとか自殺行為だぜ。すぐに僕達に泣きついてくるさ」
「わ、私はアレサさんを信じてます!」
どうやら元仲間達の想いもそれぞれ違うようだ。ただ、それでも全員が彼女を1人の仲間として認めているのは疑いようのない事実だった。
ギルドを後にしたアレサはと言うと、表でダメなら裏と言う事で、闇の賞金稼ぎの集う酒場へと向かう。そこでは非合法な賞金首がたくさん並んでいると言う話だった。腕さえ良ければ誰でも受け入れ、何の保証もないものの、きちんと仕事をすればきっちり報酬は手に入る。まさに腕自慢にはピッタリの場所だった。
酒場に入ってすぐにその奥の秘密の入口へと彼女は向かう。賞金首の中には悪党だけでなく政府の高官なども入っているために、身元確認だけは厳重に行われた。
「あなた、面白い経歴なのね」
闇の賞金稼ぎの場は裏ギルドとも呼ばれる。その裏ギルドの受付の女装した男は体をくねくねさせながらアレサの身元の確認をした。この作業は特殊な魔法によって行われ、普通の人間はまず誤魔化す事が出来ない。
当然、彼女も受付の男に全てのこれまでの経歴を読まれていた。
「うん、怪しいところはナシね。後はテストを受けて。合格したら入れるわよ」
「あ、ああ……」
受付の男の投げキッスを受けながら、アレサはそのテスト会場へと向かう。テストと言っても要は実力検査だ。実力のないものを裏ギルドは認めない。
そこには屈強な男が1人待ち構えていた。どんな手を使ってでもその男を倒せば合格らしい。アレサと対峙した男は、ひとめ目を合わせただけで顔をにやけさせる。
「俺、簡単には倒せない。俺、倒したらそいつを自由に出来る。お前、覚悟しろ」
「ふーん、ま、いいか」
アレサは自前の剣を抜くと構えをとった。男は興奮しながら向かってくる。あまりにも隙だらけだったので勝負は一瞬で片がついた。彼女の一撃で男はズウウンと大きな音を立てて床に倒れ込む。
「お、俺……もう、負けたの……か?」
「簡単なテストで助かったよ」
こうしてテストにも合格し、アレサはその奥の裏ギルドの部屋に通された。そこにはありとあらゆる賞金首の情報が並ぶ。彼女は自分に出来そうな仕事がないか、片っ端から確認し始めた。
難しそうなのでは、マフィアのボスやら国王の暗殺と言うものまである。他にも未解決事件の首謀者やら連続殺人犯、海賊、盗賊、山賊、悪徳商法の親玉、宗教の教祖など――。
勿論その中には簡単なものもあって、マフィアの下っ端だとかそこら辺のこそ泥の始末みたいなものまであった。
「うんうん、なるほどねぇ……」
賞金首の情報をあらかた見終わったアレサは、顎に手を当てて今の自分に相応しい仕事を吟味する。しばらく考えた末に出た結論、それは――。
「うん、捕まえられそうなのから片っ端に捕まえよう」
と言う、その作戦自体が頭の悪そうなものだった。
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