賞金稼ぎの女剣士

第8話 ソロプレイ希望の女剣士

 空に天空の島々が浮かぶその異世界にはファーランドと言う名の大陸がある。そこでは未だに人とモンスターがその覇権を争っていた。


 モンスターはそもそも別の大陸の生き物で、じわじわとファーランド大陸の辺境から侵略し始めて地元住民との小競り合いを続けている。ただ、まだモンスターの本陣は動いていないようで、現れるモンスターも地元住人が頑張れば追い払えるレベルだった。

 とは言え、時を経るごとにその強さのレベルが上ってきており、いつまで持ちこたえられるか分からない状態となっている。


 そのため、大陸を治める各国はモンスターに賞金をかけてモンスター退治を大陸中の腕利きに任せていた。この事業のために新たに作られた冒険者ギルドは大盛況で、空前の冒険者ブームが大陸中を席巻している。


 腕っぷしには自信があるものの、チームプレイの苦手な女剣士アレサ・ジェファーソンもまた、仕事を求めて地元の冒険者ギルドへと向かっていた。


「うっし! いっちょやりますかあ!」


 アレサは鼻息荒くギルドの扉を開けて中に入る。その途端、彼女の目に飛び込んできたのは大勢の同業者達。流石にブームなだけあって、腕に自信のある者から全くの初心者までバラエティ豊かな人材が所狭しと真新しいギルド室内を動き回っていた。

 アレサがその同業者達をちらりと見回したところ、そのほぼ全てが何らかのパーティを結成しており、ソロプレイのお仲間は視界には入ってこなかった。そのため、彼女は若干の居辛さを感じてしまう。


「ふ、ふーん、なかなかいい感じのギルドじゃねーか。さて、俺にぴったりな仕事はないかな~?」


 彼女はそう強がりながら、仕事の依頼書が貼られている掲示板へと向かう。どの依頼もチームプレイ前提の依頼ばかりで、アレサは変わりやすく肩を下ろした。


「ソロの出来そうな仕事はここにはねーぜ」


 自分の求める仕事がないかくまなく依頼を探す彼女に、屈強の男達がどけと言わんばかりに威圧する。


「へぇ、俺は1人で5人分の仕事はするぜ?」

「そのか細い腕でか? 笑わせる!」

「何なら試してみるか?」


 売り言葉に買い言葉で、一触即発の雰囲気が掲示板前で高まっていく。ギルドの冒険者達はそれを盛り上げようとあちこちでからかう声が上がるものの、施設の運営者は流石にそうは行かない。腕自慢の冒険者に派手に暴れられたら、建物にも大きな被害が及ぶからだ。

 そのため、どちらかの手が動く前に受付の人が急いで飛んできた。


「ここでの争いは厳禁です! 出入り禁止にしますよ!」

「ちっ、命拾いしたな!」

「ちょ、え?」


 男達はまるで前科でもあるのか、受付の人のその一言であっけなくその場を去ってしまい、やる気になっていたアレサは拍子抜けしてしまう。そうして、場が収束したのを受けて、持ち場に戻っていく彼女の背中越しに声をかけた。


「あの、すみません」

「はい?」

「何かいい仕事ってないですか?」

「あなた、ここは初めて?」


 受付の人は秒で営業スマイルを決めて、アレサをカウンターへと導いた。特に武芸を嗜んでいるようには見えないのに、その言葉には誰も逆らえないような圧を秘めている。もしかしたら特殊な話術の修練をしているのかも知れない。

 カウンターに着いた2人は机を挟んで向かい合い、アレサは登録の話を勧められる。


「最初はこちらへの登録をお願いします」

「あ、ああ……」


 登録は名前と所属と得意分野と契約についての決まりごとの承諾について。ソロで冒険するつもりの彼女は所属チーム欄を空白にして各項目を埋めていく。書き終えた書面を渡すと、それに目を通した受付の人は顎に手を乗せた。


「なるほど、ソロでの依頼を希望と。確かに少し前まではそう言うのもあったのですけど……最近はモンスターも強くなっていてですね……」


 受付の人の言葉はどうにも歯切れが悪かった。どうやらアレサの希望の仕事はこのギルドにはないらしい。それでも腕に自信のあった彼女は食い下がった。


「いや、俺は5人分の仕事はするぜ?」

「そう言う話ではないのです。もし何かあった時に……」

「その時は潔く死を選ぶさ」

「それはギルド的に容認出来ない決まりなんです」


 この後も押し問答は続くものの、どれだけアレサが食い下がっても受付の人は首を縦には振らない。脈がないなと感じた彼女はギルドを去ろうと、受付の人の話をスルーする形で体の向きを180°回転させる。すると、そこでアレサの知り合いがギルドに入ってくるのが見えた。

 お互いに目が合って、すぐに彼女のもとに知り合い達がやってくる。

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