第7話 名誉優勝
「あ、あれ……?」
次にユウタスが目を覚ましたのは、全体的にピンクっぽい感じの知らない天井。目覚めた時にいきなり目に飛び込んできたのが女子の部屋だったので、彼は分かりやすく動揺する。
「え? ちょ、どこ?」
「あ、目が覚めたんだ……。大仕事ご苦労様」
「え? カナ?」
起き上がってキョロキョロと周りを見回している時に、ちょうど部屋の主が戻ってくる。見覚えのある少女の姿を確認したところで、ユウタスは大体の事情を察して彼女の顔を見た。
「俺……あれからどのくらい寝てた?」
「うん、丸一日ってとこ」
「そうだ、会場は? 魔物は?」
「大丈夫、みんな消えたよ。あれ、ユウタスがやったんでしょ」
カナは、彼が会場を出ていってから今までの事をかいつまんで説明する。倒しきれなかった魔物10体は実力者達の健闘によって数を半分にまで減らした事、数が5体になったところで突然魔物達が霧のように消えてしまった事、この混乱のために大会はそこで中止になった事……。
そこまで聞いたユウタスは賞金の事が気になって、つい彼女の話を遮ってしまう。
「中止って、まさか賞金は……っ!」
「安心して。一回戦突破までの分は支払われるって」
「良かったぁ……」
賞金が払われると言う事で、彼はほっと胸をなでおろす。カナはそんな彼を見て不満をぶちまけた。
「でもおかしいでしょ。一番の功労者はユウタスなのに、特別手当みたいなのは出せないんだって」
「え、あ、うん」
「私聞いたの。優勝候補者が倒せないような魔物を召喚した親玉を倒したのに変だって。そうしたら賞金は払えないけどユウタスは名誉優勝の扱いにするって。おかしくない?」
ユウタスの扱いをまるで自分の事のように興奮して話す彼女。その様子を目にした彼は手を前に出してカナに落ち着くよう必死になだめた。
「ま、まぁ……落ち着こう、うん」
「ユウタスは悔しくないの?」
「まぁでも賞金は出る訳だし。今回は魔物のせいで会場にも被害が出たし、大会的には赤字になっちゃったんじゃないかな? 仕方ないよ」
「本当、お人好しなんだから」
カナは怒りながらもどこか嬉しそうだ。ユウタスとしても実力でゲレルを倒せた訳じゃない事が後ろめたくて、大きな声で自分の権利を主張する気分になれないって言うのが真相だったりする。
ここで彼女にチートアイテムを使って倒した事を自白しても良かったものの、何となく言い出し辛くて、結局最後まで話せないままで終わった。
「もう大丈夫? 良かったらもう少し休んでいっても」
「いや、いいよ。有難う」
起き上がったユウタスは2、3回腕を動かして体の回復具合を確かめた後、彼女の家を後にする。去っていく彼をカナは見えなくなるまでずっと見送っていた。
こうしてひとつの事件は終わり、また平穏な日々が戻ってきた。新人の拳闘士はまた次の大会に向けて修業の日々が始まる。あの日空に飛んでいったライバルも見事に復活を遂げ、会う度にまたあの下らない喧嘩を繰り返したりしていた。
そんなある日、ユウタスは借りっぱなしだったチートアイテムの事を思い出す。それを返すために、まずは傷がないかを確認。すると、中央の大事な宝石に亀裂が入っているのを見つけ、傷の具合をはっきり見ようと手で軽く擦る。この時、その刺激でパリンと宝石は粉々に砕け散ってしまった。
怖くなった彼は、怒られ覚悟でその事を持ち主に伝える。
「ごめんトルス、天空神の加護、壊れちゃった」
「ああ、いいよあれ、レプリカだから」
「そうなの?」
トルス曰く、本物は高級品で彼の小遣いでは買えず、仕方なく標準価格の20分の1以下の値段のレプリカを買ったのだとか。レプリカは使い捨て商品的な位置付けで、運が悪いと一回で壊れてしまったりもするらしい。そんな製品で最大出力を発揮させたのだから、そりゃあ宝石が傷付いたら一発で壊れると彼は陽気に笑う。
こうして大体のからくりも分かり、罪悪感も消え去ったユウタスは、この能天気に笑う友に合わせて一緒に笑い合った。
「けどまぁ、どうしても償いたいなら今度対戦した時に勝ちを譲ってもらおうかな」
「アホか! それだけは絶対にしねぇ!」
「ふん、いいさ。実力で勝ってやる」
「言ってろ!」
こうして全てのわだかまりはなくなり、2人はお互いの拳をぶつけ合う。次の大会はまた一ヶ月後。ユウタスはその大会で今度こそ好成績を収めようと、今まで以上に技の研鑽に励むのだった。
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