第6話 天空神の加護
「今だ!」
「分かった!」
その一言で全てを理解したユウタスは速攻で駆け出した。幸い、トルスの超絶腹パンのダメージが残っている巨大ゲレルはまだまともには動けない。
チャンスは今しかないと言う事で、ユウタスは走りながら右手を振り上げてその一撃に全神経を集中させる。
「このぉぉぉ……割れやがれぇっ!」
渾身のユウタスパンチは見事に巨大ゲレルの額の宝石を正確に打ち抜いた。全ての力を右手に乗せたその一撃は、確かに今のユウタスに打ち込める最大の威力を放ったのだ。
けれど、そのフルパワーを持ってしても額の宝石に傷ひとつつけられなかった。割れない硬石に打ち込んだ力はそのままダメージを跳ね返して、ユウタスの拳を痛めさせる。殴った右手も勢いよく弾かれ、彼は悲痛な叫び声を上げた。
「いってぇぇっ!」
「何、だと……?」
こうして作戦は失敗し、トルスは首を傾げる。ユウタスの一撃は巨大ゲレルに通じなかったのだろうか? 彼のパンチを受けた後、しばらくの間頭を抱えていた巨大ゲレルはその後、回復したのかゆっくりと立ち上がり、そうして少し揺らめいた。
「やっぱりノーダメージではないみたいだな、これなら……」
フラフラしている巨人を見たトルスは、まだ勝てるチャンスはあるとばかりにうなずいている。ユウタスはいつの間にか立ち止まっているライバルを見つけ、すぐに駆け寄った。
「トルス!」
「おう!」
「何ださっきの動き、あんな隠し玉を」
「待て、話は後だ。まだ終わっていない」
数々の疑問が湧き出て答えを求めるユウタスを、トルスは手を前に出して止める。そう、まだこの戦いは終わっていない。グズグズしていたら巨大ゲレルは調子を取り戻し、完全な状態でユウタス達を倒しにかかるだろう。
そうなる前に追撃しなければ、この戦いに勝ち目はない。
「アイツを倒すならまたさっきの技を繰り出すしかないよ、トルス」
「いや、もうアレは使えない。一日に1回しか使えないんだ」
「えっ?」
「さっきのはこの天空神の加護を使ったんだよ」
トルスはそう言うと、首にかけていたアイテムを取り出した。天空神の加護は天空人なら誰でも使うの事の出来るパワーアップアイテムだ。ただし、禁止アイテム扱いのため、大会での使用は厳禁。使用即反則負けのチートアイテムでもある。
体質や相性の問題もあるものの、人によっては潜在意識を最大限に引き出し、普段の10倍以上の力を引き出す事も可能だとされている。
「これ、どうしたんだ?」
「ゲレルの暴走を見て、すぐに取りに帰ったんだよ。絶対役に立つと思って。ユウタス、次はお前の番だ」
「貸してくれるのか?」
「ああ、使ってみな」
トルスはそのチートアイテムをユウタスに手渡す。天空神の加護は高純度のものならば家一軒分の値段に相当するものもあるほどの高額アイテム。ユウタスが手にしたのは今回が初めてだった。
なので使い方はさっぱり分からず、さっきのトルスの仕草の見よう見真似をする。と言う訳で、彼は天空神の加護を首にかけると、両手を合わせてひたすら意識を集中させた。
「こうすれば、いいのかな……」
「ああ、加護を通じて天空神と心を通わせるんだ。やがて心の宇宙が繋がる感覚を感じおぶっ!」
説明を最後まで言い終わる前に、完全復活した巨大ゲレルの一撃を受けてトルスは天高くふっとばされていった。放物線を描いて空の彼方に消えていく一点を見つめながら、ユウタスは静かに怒りの炎を燃え上がらせる。
「貴様ァーッ!」
完全に切れた彼は天空神の加護の力を開放させる。才能があったのか偶然なのか、この時、ユウタスは加護が引き出せる最大限の力を我が物にしていた。黄金色に高まったオーラを身に纏い、ゲレルに向かって突進する。
この時、彼は自分の意識をなくし一種の無我の境地に達していた。そのために全く無駄のない動きをしながら、最短距離で敵に向かっていく。あまりのその早さにゲレルは一瞬ユウタスの姿を見失った。
「激烈・龍星多段撃!」
さっき額を狙ったユウタスパンチの10倍の威力の連続パンチがゲレルの体を貫き、確実にダメージを与えていく。両足、両手の動きを封じ、腹部、胸部、喉と次々と目にも止まらない早さで打撃を加え、そうしてついに弱点の宝石を貫いた。
その瞬間、宝石はあっけなく砕け散り、ゲレルは前のめりに倒れ込む。
宝石を失った彼は倒れ込みながら普通の大きさに縮んでいった。こうしてユウタスは完全勝利を遂げたのだった。
「やった……やったぜっ!」
勝利を確信した彼はその場で大きくジャンプをしてこの戦いの勝利を喜ぶ。ゲレルの力が途切れた事で会場内を暴れまくっていた魔物達も自然消滅。こうして混乱は無事に解消したのだった。
事件も解決したと言う事で、ユウタスは報告をしようと会場に足を向ける。ただ、ここで加護による完全開放の反動が襲ってきて、3歩も歩いたところで彼もまた道端に倒れ込んでしまったのだった。
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