第5話 頼もしい助っ人

 ゲレルは、倒れたユウタスの腹部に向かって力任せに拳を振り下ろす。この攻撃が当たればユウタスは無事では済まないだろう。最悪の想定をした彼はぎゅっとまぶたを閉じ、腹部に力を込める。後は運を天に任せるしかない。

 そんな状況の中、この2人に向かって超スピードで駆けてくる人影があった。


「何やってんだキーック!」

「うごばわらーっ!」


 その人影の放った不意打ちキックによってゲレルは面白いように吹っ飛んだ。ユウタスの危機を救った影、それは彼のライバル、そう、トルスだった。


「お前も何やってんだよ。情けない」

「さ、サンキュー……」


 トルスは倒れていたユウタスをゆっくりと立たせる。この頃にはユウタスもかなり体力を回復させており、立たされた後は普通に動けるようになっていた。


「なんだよクソが! お前ら2人共ブッ殺す!」


 不意打ちキックがよっぽど頭に来たのか、起き上がったゲレルはすっかりキレてしまっていた。その気迫から放たれるオーラは今までの彼とは比べ物にならないほどの邪悪さを放っている。ユウタスはこの状況にライバルの肩を叩いた。


「ちょ、これヤバいんじゃないか?」

「ここまで来てビビんなよ。大丈夫、策はある」


 どうやら、トルスは何かこの戦いを有利に進める切り札を持ってこの場に現れたらしい。その頼もしさに、ユウタスは安堵の表情を浮かべる。


「そんなのがあるのかよ。よく知ってたな」

「ああ、でも詳しい話は後だ。アイツの弱点はな、あの額の宝石だぜ!」

「宝石?」


 確かによく見ると、目の前のフード男の額には宝石が埋め込まれていた。大きさは親指の爪くらいだろうか。弱点が分かったところですぐに攻撃に移ろうとしたものの、さっきからゲレルの様子がおかしい。

 怒りオーラを体に溜め込んだ彼は、事もあろうに体を巨大化させてしまったのだ。


「ぐおおおおおーっ!」


 雄叫びを上げながらぐんぐんと大きくなったゲレルは、最終的に10メートルほどの巨人になってしまった。この予想外の展開にユウタスは困惑する。


「……どうやってアレに攻撃を?」

「任せろ! 俺が花を持たせてやる!」


 トルスはそう言うと、胸に両手を合わせてまぶたを閉じる。いきなり何が始まったのかとユウタスが様子を静観していると、トルスの体がにわかに光り出した。

 しかも内在する潜在能力まで高まったのか、醸し出すオーラの質が何段階か一気に撥ね上がる。その上昇はさっきの大会で見せた彼の第一試合時の時とは比べ物にならないほどだ。


「おいおい……一体お前に何が起こってるってるんだ?」

「いいから黙ってろって。今からとっておきを見せてやるからよ」


 ユウタス達のやり取りを巨人化したゲレルが傍観する訳もなく、急激に力を増すトルスを危険視した彼は、これを潰そうと大きく振りかぶる。


「グルオオオー!」


 大きくなったのと引き換えに知性を失ったのか、巨大ゲレルはモンスターのような雄叫びを上げて上げた右手を思いっきり振り下ろした。そのものすごいスピードは周りに突風を発生させ、ユウタスは思わず腕で顔をガードする。

 前が見えなくなった彼は、ゲレルの攻撃対象となってしまったライバルの安否を心配した。


「トルスー!」

「バーカ! 死んじゃいねーっての」


 超高速の巨人の一撃は地面にめり込むほどのパワーだったものの、そこにトルスはいなかった。自慢の一撃が空振りに終わり、しかも拳が地面にめり込んだ事でゲレルは悲痛な叫び声を上げる。


「グギャアアアーッ!」

「トルス、トルスッ!」


 声はすれども姿の見えないライバルを探そうと、ユウタスは何度も名前を叫びながら顔を左右に振った。

 何度か同じ行動を繰り返した後、すごい速さで動く何かを彼は発見する。よく見ると、それは超スピードで動く幼馴染の姿だった。


「嘘……だろ?」

「へへ、やっとお前の目も慣れてきたかよ」

「トルス、そのスピードは一体……」

「まぁ見てなって。今からが本番だ!」


 超高速で動くその人影は更にスピードを上げ、常人には見えない程の領域に達する。次の瞬間、ドオン! と鼓膜が避けるくらいの大きな音と供に巨大ゲレルのお腹の形がありえないくらい凹んだ。見えないほどの超スピードからの一撃、これがトルスの言うとっておきなのだろう。

 長い付き合いの中でも、そんな常軌を逸した攻撃を放つのを今までに一度も見た事がなかったユウタスは、ぽかんと大きく口を開けてしまう。


「マジ……かよ……」

「ウ、ゴア……」


 トルスの放った超特大の攻撃を受けた巨大ゲレルは反射的にしゃがみ込む。すると、当然のように顔の位置が下がった。

 その位置ならば弱点の額の宝石にも攻撃が届くと言う事で、自分の仕事を終えたライバルが叫ぶ。

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