第一章 5話

その後各々は午前の訓練を終え、施設から少し離れたカフェテリアに集合した。

柔らかな日差しが差し込む窓は、反射しキラキラと輝いている。

一見普通の店と客にしか見えないだろうが、私達は軍人であり、このガラスは防弾ガラスなのだ。

「なんで私達が国王の護衛なんかしなきゃいけないの!?」

急に口を開いた彼女に吃驚し、私とユージラは顔を向けた。

今季限定の苺のサンドイッチを口に含みながら眉間にしわを寄せたセザンヌは、納得がいっていないよう。

「さっき説明されてたでしょ?だから... 」

「ちがうのユー!私は戦場に行きたいの!

こんなの時間の無駄じゃない!」

紅茶を手に取ったまま、唖然とするユージラを横目に頬を膨らませるセザンヌは、駄々をこねる子供みたい、いや、犬か。

すると、何か策を見つけたのか、ユージラは顔をこちらに向け、いたずらな笑みを浮かべて話しかけてきた。

「でもさ、ほら、スペア国ってお菓子が有名じゃない?ね、ボルネシア。」

「そうだったね、確か、国王はラズベリーのパイがお好きだったんじゃなかった?」

頭の中でラズベリーパイを思い浮かべる。

赤い果実が砂糖と絡められ、サクサクとしたパイ生地に山のように乗ったパイだ。考えるだけで涎が出てきそうである。

「そりゃあ、お菓子は好きだけど...」

少し俯向く彼女に追い打ちをかけるかのようにユージラは話を続けた。

「あと、招く人も多いだろうし、料理もあるんだから、…私達も招かれている身なんだし、食べ放題じゃない?」

ユージラがくすくす笑って見せると、セザンヌは不機嫌らしからぬ笑みで足をバタバタさせた。彼女に大きく左右に振られたシッポが見える。セザンヌが犬ならば、ゴールデンレトリバーらへんの大型犬だろう。長い髪がもふもふの毛に見えてくる。

抱きついてみたいものだ。


「今日はとりあえず、明日の準備をしないとね。」

ユージラが側に置いていた数枚の書類に目を通す。

「ま、護衛だけなら容易なことだね。」

私はユージラの持つ書類をちら、と見て呟いた。書類の枚数が少ないということは、そこまで細やかな仕事がないということだ。


...セザンヌが言っていることはあながち間違いではない。

街中にアンドロイドが現れることはまずないのだ。警備を厳しくしているものだから、戦場に出てくる程度である。

まぁ、バレていないだけかもしれないが...。

つまり、可能性の低い中での防衛。

私にとっては休暇のようなもの。


そんな余裕が、のちに悲劇を生むのだろう。


「なら今日は、ゆっくりするとしようか。」



こんな休日、次はないだろうな。

今は、苦味の強い珈琲を一口飲み、女だけの会話を楽しむとしよう。

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