第一章 2話

次に目を覚ましたときは、ベットの中だった。柔らかいシーツに身を包み、光が差し込む窓をぼうっと眺めていると、耳に激音が走った。

けたたましくなるタイマーを止め、小さく唸りながら重い身体をゆっくりと起こすと、

早起き体質な同居人が話しかけてきた。

「おはよう、ボルネシア。調子は…良くなさそうだね、何か飲む?」

相手の体調を伺え、おまけにフォローまでしてくれる完璧な彼女、″ユージラ″は、同居人であり、良き仲であった。

白い髪に赤い目という少し珍しい体質であり、良い環境で恵まれた彼女は、この中で最も優しく、おねえさんのような人である。

大の映画好きで、様々な国の映画を見漁っているらしい。最近の好みは、ホラー映画だとか…。


美しい髪を三つ編みにし、後ろでまとめた彼女は、用意を完璧に済ませているようだ。簡易的なコップで珈琲を飲んでいる。

ふんわりとした髪に隠れた右目から、赤い瞳がちらりと見え、目線の先で窓にいる小鳥たちが囀りあっている。


「…おはようユージラ、今日は要らないよ。ところで、あの″狂犬″は?」

「あぁ、セザンヌならまだそこで... 」


ユージラが指を指した方を見ると、時間にもかかわらず眠っている彼女が見てとれる。

二段ベットの下で眠る彼女は、私以上に寝像も寝起きも悪い。近づき、乱暴に布団を剥ぐと、犬のように唸り、身体を丸める彼女の姿があった。

ダメだ。こうなれば徹底的に起きない。

もし下手に手でも出したりすれば、どうなるかは想定が付く。そうだね、ここは...

「今日の朝ごはん、ホットケーキだよ、」


「ほんと!?」 

途端急に体を起こし、ぶつかりそうになる顔を私はなんとか回避した。

目をキラキラとさせる彼女を横目に、ユージラはくすくすと笑っている。

金髪の背中まである長い髪をゆらゆら揺らしご機嫌に歌を歌っている。彼女はセザンヌ。まるで犬のような性格で、元気で人懐っこい。食べ物には目がなく、食事の時間と″仕事の時間″を楽しみにしている。

「ほら、準備しよ?二人とも。もうすぐ朝礼の時間だよ」

ユージラの問い掛けに私は気だるげに返事し、用意を始める。


“軍服”は、紛れもなく私の生まれ、帝国の軍服である。黒を基調とし、きっちりとした衣装をベストの上から身につけた。

ユージラ、セザンヌも同様、それぞれ自国の軍服を身に包み、軍靴を履いた。

一方私は靴箱の中からお気に入りの”ヒール”を取り出し履き、ドアを開けた。





…一見平和そうに見える寮は、私たちにとってただの休憩所に過ぎない。戦争をする国にとって、平穏もくそもないのだ。




コッ、コッ、とヒールを優雅に鳴らし、先頭を歩む私は、



今日も奴らを殺すための訓練をするのだろう

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