戦争の話をしよう
第一章 1話
ごうごうと、何かが燃える音がする。
ぱちぱちと、何かが焼ける音がする。
此処を人は「戦場」と呼び「墓場」と呼ぶ。
“わたし”は、炎の海を、崖の上からただじっと耳を澄まし、見つめていた。
銃声と、悲鳴と、軍靴が愉快に踊る音が混ざり、パレードのような、祭りのような感覚を、ほんのりと暖かい火と共に感じる。
銃声は、威勢良く鳴り始め、やがて虚しく消えていく。キラリと光る金属にあたり、カン、と音がしたと思えば、また銃声は響く。
悲鳴は、声を張り上げてけたたましく叫ぶものもあれば、此の世の地獄から逃げ出す小鳥のように小さく唸るものもいる。どちらにせよ、軍人である彼らに涙はない。
人で溢れる場であるはずなのに、そこには機械音が絶えなかった。工場で働くロボットが、同じ作業を繰り返すように”あっちの国”の兵士たちは、人間とも見て取れる簡易な機械の体で、作業のように銃で人を撃ち殺していた。
たとえ人間の攻撃が当たったとしても、機械の手は止まることはない。弾丸の数が減るだけ。無駄。それは、戦争を知らないわたしでも分かることだった。
それでも、彼らは諦めなかった。
爆弾を腰につけたまま敵地に突進するものまでいた。国のために命を捨てる彼らがわたしには分からなかった。
ふと、横から音がした。
…と思えばその容器は火を灯し、差し出された白い棒の先を赤くした。
赤い光から白い煙がゆらゆら揺れて流れていく。
“父”が煙草を吸う時は、
楽しい時か、悲しい時だ。
時々、あぁ、と声を漏らしたり、よし、と笑ってみたりと様々な表情を見せる。
まるで映画を見ているかのように、父の顔は楽しそうに見えた。
わたしは父のそばに立ち、じっと様子を見つめていた。時々彼の耳元から雑音とともに声がした。切羽詰まった誰かの声を宥めるかのように父は冷静に指示を出してるように見えた。
どうやら父は偉いらしい。黒いマントを優雅に揺らし、どんな返答にも「命令」といって聴き受けない。
そして、酷く”あめりや”という国を嫌っているようだった。
そして、父はこちらをちら、と見、面白いだろう、と問い掛けた。
目を細める父の仕草が、
口元を緩め凛とした花が崩れるような顔が、
わたしは好きだった
でも、わたしは何も答えなかった。
10にもならないお子様にこれはちと難しかったかと言っては、私の頭を無造作に撫でた。
亡き母の手とは違い、ごつごつした手は、赤黒い何かをこびりつけていた。
わたしは、問いかけた
いま、なにをしているの?
父は、静かに答えた。
戦争さ。
人と、人でない物の争いさ。
ここで、”私”の夢は終わっている。
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