第2話
ひとつ、またひとつと歩みを進めるうちにも、日はどんどんと落ちていく。
一旦鮮明になった遠い山の稜線は、またぼやけて夜の闇に沈んでいった。
夜に追い立てられるかのように、私の足は心なしか速くなる。
足がはやれば逸るほど、頭からは感情が抜けて落ちていった。
少し荒くなった自分の息づかいも、規則正しくリズムを刻む自分の足音も、
澄んだ大気にすっと消えて私の中には入らない。
びゅうっと風が吹いて去っていく。
梢が揺られて音を立てる。
遠くで鳥の鳴く声がする。
みんな黄昏時の空に消えていく。
一段と強い風が吹いた。
「寒い…。」
白い息とともにそんな声が出た。
また強い風が吹いた。
それを一身に受けて、私は自分がひどくつかれていることに気がついた。
立ちどまって西の空を見る。
さっきまでそこにいた赤い太陽は、いつのまにか消えていた。
*
坂を少し下ると、景色がいなくなった。
あるのは前後に延びる道だけ。
私は前に進むしかない。
誰もいない道で私は歌を歌った。
Miserere mei.
どこか哀しい調べが私の心にこだました。
ふと思った。
私がこうして居ることを、みんなは決して知ることはない。
誰がどうして居るのかを、私は決して知ることはない。
ならば、みんなに私がみえないときは、私はどこにいるのだろう。
みんなが私にみえないときに、みんなはどこにいるだろう。
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