第2話

ひとつ、またひとつと歩みを進めるうちにも、日はどんどんと落ちていく。

一旦鮮明になった遠い山の稜線は、またぼやけて夜の闇に沈んでいった。


夜に追い立てられるかのように、私の足は心なしか速くなる。

足がはやれば逸るほど、頭からは感情が抜けて落ちていった。


少し荒くなった自分の息づかいも、規則正しくリズムを刻む自分の足音も、

澄んだ大気にすっと消えて私の中には入らない。


びゅうっと風が吹いて去っていく。

梢が揺られて音を立てる。

遠くで鳥の鳴く声がする。

みんな黄昏時の空に消えていく。


一段と強い風が吹いた。

「寒い…。」

白い息とともにそんな声が出た。


また強い風が吹いた。

それを一身に受けて、私は自分がひどくつかれていることに気がついた。


立ちどまって西の空を見る。

さっきまでそこにいた赤い太陽は、いつのまにか消えていた。



坂を少し下ると、景色がいなくなった。

あるのは前後に延びる道だけ。

私は前に進むしかない。


誰もいない道で私は歌を歌った。

Miserere mei.

どこか哀しい調べが私の心にこだました。


ふと思った。

私がこうして居ることを、みんなは決して知ることはない。

誰がどうして居るのかを、私は決して知ることはない。

ならば、みんなに私がみえないときは、私はどこにいるのだろう。


みんなが私にみえないときに、みんなはどこにいるだろう。



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