第47話 思い出話Ⅷ

「よーし!じゃあみんな宿題出せよ〜!」


先生が朝礼終わりにみんなに昨日やったはずの宿題の提出を呼びかけている。


例の女の子たちは笑いながら先生の元に提出しに行った。


加恋は頼まれた事はしっかりやるタイプと認識されているため中身も見ずに宿題を提出した様子だ。



「学級委員長はこれ職員室まで運ぶように!頼んだぞ〜」


先生はまたいつものように加恋に運ぶようにお願いした。


「はぁ〜」


こればかりは学級委員長の仕事であるため断れないが少しばかりめんどくさい。

特にこの教室から職員室までは階段を上り下りするためだからである。


ため息を漏らしながら加恋が宿題のノートを持ち上げようとすると、



「加恋!今日は俺が宿題持っていくよ」


よっちゃんが代わりにノートを持ち上げた。



「え?どうしたの?よっちゃん、全然私が持っていくけど……」


加恋は意外だった。


何しろあのめんどくさがりのよっちゃんが日直でもないのに持って行くと言うのだから。


するとよっちゃんは苦笑いしながら言った、



「いや実はさ、俺宿題やってないからこれ持って行って出来るだけ先生に誠意を見せたいと思ってて」


持っていけば、少しは怒られないだろうと思っての行動だったのだろう。

よっちゃんがやる理由はどうせそんな事だろうと思っていた加恋は少し笑い、



「ぷっ!……分かった、じゃあよっちゃん頼んだからね!」


よっちゃんに任せた。


「おう!任せとけ!」


そして意気揚々とよっちゃんはノートを持ち上げ、教室を出て行った。





加恋はいつものように女の子達に仕事を押し付けられながら学校生活を送っていた。


そして午後の予定帳を書く時間のため教室に戻ってみると、


「ん?なんだか教室が騒がしい……?」



教室から女の子達の声がしている。


あとは誰かが怒鳴り散らかしているのだ。



「なんでそんな酷いこと言うの!?」


「そうだよ!大地くん、おかしい!」


「私たち何かした?」



教室に入ると例の女の子達が大地と揉めていたのだ。


状況が分からず加恋は教室の扉の近くにいた子に話を聞いた。



「ねえ?どうしたのこれ?」


「私もあんまりよく分からないんだけど、なんか大地くんが急にあの子達に悪口言ったみたいで……」



「え?」


あの大地が悪口?


加恋はとても信じられないという思いだった。


女の子達は大地に話しかける。



「私たち何か悪いことした?それだったら謝るけど!」


「うるさいな、今日の掃除僕の代わりにやれって言ってんだよ!」


大地は少し女の子達に強く言い放っている。

それにビビっているのか、女の子達はなんだか戸惑っている様子だ。



「大地!何やってるの!?」


加恋は近くに行き、大地に話しかける。


「何ってこの子たちに仕事押し付けてんだけど?」


「だからなんでよ!?」


「なんでって……僕はすぐ帰らないといけない用事があるからだよ!」


いつもの大地らしくない、加恋は率直に思った。


いつもの大地ならこんな強く頼まないはずだ、出来るだけ優しく頼むはずなのに今回は少しおかしい。



「えぐっ……ひどいよ、人に仕事押し付けるなんて、大地くん!」


大地が珍しく強く言ったからであろう、しまいには女の子達の中で泣き出す子も現れてしまった。



「嘘泣きするな!ブス!」


「謝ってよ!そんな酷いこと言ったんだからさ!」


「嫌だね!」


断固として大地は女の子達の意見を聞こうとはしなかった。



「最低だよ!大地くん!」


「大地くんってこんな子だったの?」


「なんか感じ悪いよね〜」


「自分の仕事急に押し付けるなんて酷すぎ」


周りの女の子達やクラスの子達も今の大地を見てだんだん大地のことを悪く言い始めた。



「加恋ちゃん!なんとかしてよ!」


女の子達の一人が加恋を見つけて、声をかけた。


「えっえ?わっ私?」


「なんだよ加恋お前も文句あるのか?」


「えっえと……それは……」


加恋的にはいつも仕事を押し付けている女の子達が今更、仕事を押し付けるのは良くないとか言ってる事に嫌悪感を抱いていたのは事実だった。


しかし今のクラスの雰囲気的にそれを言えることもなく、大地が悪い雰囲気になっていた。



すると大地は加恋と目を合わせて、


「加恋はさ!人に自分がやりたくない事押し付けて!何かと理由はつけてはそいつが何も言ってこなかったらどんどん仕事を押し付けようとする、僕みたいな奴は最低だと思うのかよ!なぁ!お前の口ではっきり言えよ!」



大地は真剣に加恋に向かって怒鳴った。


加恋は自分の心に大地の素直な意見が突き刺さった感じがした。


そのせいか、それは普通だったら加恋の口から出るはずのない久しぶりの愚痴が出るきっかけとなった。



「最低だよ!自分の仕事くらい自分で出来ない奴なんて最低中の最低な奴だよ!何が私〜できないからよろしくね〜……だ!頼まれた人だってな断る理由があるはずなんだよ!何も言わないからって勝手に話進めるな!」


「ハハッ!お前もそう思ってたんだな、そうか!」



加恋が久し振りに怒鳴ったことに嬉しくなったのか大地は笑った。



「加恋ちゃん!そんな最低な人謝らせようよ!」


「そうだよ!謝らせよ!」


「泣かせたんだからさ!謝らせてやろ!」


「そっそれは……」


加恋は戸惑った。


多分、大地は加恋のためを思ってこんな状況を作り出したに違いない。


それなのにこれ以上大地に恥ずかしい思いをさせたくないという思ったからである。




「なんだ?僕に謝って欲しいのか?……だったらそうだな、僕と加恋でジャンケンして加恋が勝ったらお前らに謝ってやるよ!ただし、僕が勝ったら……お前達は代わりに掃除しろよ!」


クラスの雰囲気が徐々にヒートアップしてきた。


「加恋ちゃん!頼んだよ!」


「あの最低な子を謝らせて!」


「……でも……」


クラスのみんながジャンケンをしてそうにしている。


……それは大地も……。



「加恋!いいな?」


ジャンケンをするしかない、加恋は心にきめた。



「「最初はグー!ジャンケン……ポン!」」



加恋はパーを出した、そして大地は……グーだった。



「やったー!」


「加恋ちゃんが勝った!」


「さぁ!謝ってよ!」




「「「あーやまれ!あーやまれ!」」」


大地に向かってクラス中の子達がコールをし始めた。




「ムムム……はぁ……分かったよ……どうもすいませんでした!」


大地は素直に女の子達に頭を下げて謝罪をした。



「ふーんだ!分かればいいのよ!二度と仕事とか押し付けないでよね!」


さっきまで泣いていた子はケロッと普通の表情に戻っていた。


「大地くんってそんな奴だったんだね!」


「なんか、嫌いになったわ〜」


「あんな最低な人にはなりたくないよね〜」


女の子達は大地に冷たく当たっている。


よほどあの悪口が気に入らなかったのだろう、冷たい目で見ている。


それに大地は頭を下げながら女の子達の文句に何も言い返さず耐えていた。

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照れ隠しによって引き起こされる僕の悪口がなぜか女の子達の好意を爆上げさせてメロメロにしてしまうって話した?  梅本ポッター @umemoto_potterdayo

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