第46話 思い出話Ⅶ
「行ってきまーす!」
大地は家を飛び出していった。
「昨日教えたこと頑張ってこいよ〜!」
美沙は元気よく出ていった大地を玄関で見送った。
「大地〜 私が教えたこともやってみてね〜」
すると智恵美も見送った。
「ん?智恵美も昨日何か教えたの?」
「うん!なんか美沙ねぇと大地だけでこそこそやってたから智恵美も大地に色々教えてあげたんだよ〜」
智恵美が笑っていながら美沙に喋る。
「お前……何教えたんだ?」
こうやって智恵美が笑うって言うことは良くないことを教えた時だ……と心の中で美沙は思っていた。
「ん〜ないしよ〜!」
「っていかんいかん、私たちも行かないと学校に遅刻するぞ」
「そうだね、急ご、急ご!」
二人も急いで行く準備をし始めた。
◯
「ごめん、ごめん!よっちゃん待たせた?」
大地は本当は集合時間、丁度に着くはずだったのだがいろいろと考えていたら遅刻してしまった。
「遅いぞ、大地!10分は待ったぞ?」
腕を組んでよっちゃんは不満そうに待っていた。
「10分ってことはそろそろいい感じに焼けた頃だね」
「人を丸焼き前の豚みたいに言うな、ところでなんで突然昨日加恋置いて早く行こうなんて電話かけてきたんだ?」
「ちょっと話したいことがあって……」
「まぁ止まりながら話すもなんだから歩いて話そうで?」
「うん、そうしないとよっちゃんが丸焦げになっちゃうからね」
「お前、本当に話聞いて欲しいのか?もしくは俺をバカにしたいのか?」
しばらく二人で歩いていると、
「んで、話ってなんだ?」
「実は…………」
大地はよっちゃんの耳元で今日することを包み隠さずに言った。
「……っていうことして欲しいんだ……」
「はぁ!?なんで俺がそんなこと手助けしなきゃいけないんだ?」
「お願い!よっちゃん!」
「嫌だね、俺の評価下げたくないし」
「大丈夫だよ、よっちゃんこれ以上低くならないから」
「なんなのお前? 俺の評価ゼロって言いたいの?もう決めた、絶対やらない……」
「これから一週間、給食のデザートあげるっていっても?」
「……おいおい大地くん、俺たち親友だろう?やるに決まってるじゃないか?」
「よかった〜やっぱりよっちゃんならやってくれると思ってたよ!」
「ふっ……任せな!んでいつやるんだ?それ?」
「一応、夕礼前にやろうと思ってるんだけど……」
「分かった、じゃあ俺もそれなりに準備しとくわ」
「何を?」
「……いろいろさ!」
そう言ってよっちゃんはニヤニヤと笑った。
◯
加恋は家をいつものように元気良くは出れなかった。
昨日も掃除を一人でやっていたため、ピアノの練習の時間に遅れてしまいお母さんにこっぴどく怒られてしまった。
さらに他の子の宿題をやっていて夜遅くに寝ていたからだ。
「はぁ〜あ、今日学校行きたくないなぁ……」
加恋の口から大きなため息が出る。
行っても楽しいことなんてない。
むしろ自分の気持ちが沈む感じがする。
先生からの仕事はまだ許せるのだが、女の子達からの嫌がらせそれがより一層加恋を悩ませているのだ。
「なんで大地、あんなことを……」
昨日夜に大地から突然電話がかかってきたのだ。
その内容は、『明日は絶対に学校に来いよ!風邪引いても来いよ!絶対にな!……あと明日は朝早く行くから一緒に行けない!」というものだった。
大地が朝早くに行くなんて滅多にない。
まぁどうせよっちゃんとくだらない事をするために早く行くのだろうと思いながら加恋は行きたくない学校にトボトボと歩いていった。
◯
「あっ!加恋ちゃん!おはよう〜!」
加恋が教室に入ると朝一番から例の女の子達に会った。
「…………」
「昨日お願いしたことやってきてくれた?」
お願いというのは宿題のことだろう、もちろん加恋はやってきた。
加恋はランドセルから女の子達のノートを取り出して女の子達に渡した。
「わぁーありがとう!ちゃんとやってきてくれたんだね!?」
「まじ助かる〜」
女の子達は顔を見合わせて薄ら笑いをしている。
この子達には本当に感謝の心なんて持っているわけなんてない。
そんなこと加恋は初めから分かっている。
「あっあのさ……もうこれ以上はやめ……」
「え!?なんて言ったの!?」
「小さい声で全然聞こえない〜!」
「じゃあまた頼むかもしれないからよろしくね〜あっはっはっ!」
加恋が最後まで言うのを待たずに女の子達は笑いながら離れていった。
加恋は顔を上げる。
天井を見るように。
そうしないと……そうしないと、
……涙が出てしまうから。
……みんなにバレてしまうから。
……みんなに迷惑をかけてしまうから。
……大地がいろいろと悩んでしまうから。
このことは自分で解決しないと……。
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