第45話 思い出話Ⅵ

それから数日間、加恋に対する女の子達の嫌がらせは続いていた。


別に暴力や暴言を言ってるわけではないので先生には気づかれず続けられていた。


さらには女の子達は賢く、大地や他の子にも気づかれず、加恋に仕事や宿題をなすりつけたりしていたのだ。



「ごっごめん!」


「お!珍しいな?加恋がこんなにもギリギリに来るなんて」


「うん……最近ちょっと面白いドラマやってて……」


「そっか〜、気をつけないといけないぞ?はっはっはっ!」



大地は加恋が自分と同じ様に夜更かしをし始めた事に共感を持てたのか笑った。



「じゃっ行こっか?」


「おう!……ん?加恋お前なんかランドセルパンパンじゃないか?そんな荷物あったっけ?」



見ると確かに加恋のランドセルは沢山のノートや教科書でいっぱいなのかパンパンになっていた。


「えっ!?……あぁこれは違うよ!こっこれは学級委員長で用意してって言われた荷物で……」



加恋は必死に大地にバレない様に茶化す。



「そっか!ならいいや」



大地が納得すると加恋は再び俯いた。







「大地〜帰ろうぜ?」


「うん!あっちょっと待って……」


大地は加恋の元に行く。



「加恋、今日お前の家行っていいか?ちょっとお前の母さんに用があるんだけど」


「ごめん……今日はピアノの練習があるから家に来れないと思う……」


「んーそっか!残念!じゃあまた今度にするよ!加恋、今日掃除係だよな?頑張れよ〜じゃあな!」



大地はよっちゃんと教室を出て行った。



加恋は掃除道具を持ち掃除をし始めようとしたその時、



「ねぇ!加恋ちゃん……ちょっといい……?」








大地とよっちゃんは二人でいつもの様にふざけあって帰っていた。



「あぁぁぁ!?」


「なんだ!?どうしたんだ!?大地!」


突然声を出した大地によっちゃんはビビった。



「教室にサッカーボール忘れてきちゃった!」


「なんだ……そんなことか……」


「いやヤバいんだ!忘れると姉さん達にあんなことやこんなことを……ガクガク……」



大地はブルブルと震えている。



「……ゴクリ……大地、あんなことやこんなことって?」


「こうしちゃいられない!」


大地は一目散に学校に戻っていった。



「おい!大地!?あんなことやこんなことってぇぇぇ!?」


よっちゃんの思いは届かなかった。







「あれ?あの子達って確か加恋と同じ掃除係の子達だよな?」


校門近くにいると向こうから大声で話している例の女の子達が歩いてきた。



「なんで戻ってきたか聞かれるの恥ずかしい、隠れよ」


大地は物陰に隠れた。



すると女の子達の会話が聞こえてきた。


「いやぁ〜本当にやってくるとはね!」


「本当、本当!冗談で言ったつもりだったのにね!」


「まさか加恋ちゃん本当に私達の宿題やってくるとはね!」


「よしこちゃんが冗談で言ったら本当にやってくるんだもんあの子!笑っちゃうわよね」


「いいのよ、あの子、自分は大地くんのこと全然意識してないとか言ってる割にはいつも近くにいるし、正直うざいんだよね〜」


「それわかる!協力するって言ってたのに全然しないし!」


「仕事とか押し付けたら全部やるしね、なにあれ、ポイント稼ぎのつもり?」


「でもさ、掃除全部あの子に押し付けたの良かったのかな?」


「いいのよ、いいのよ、あの子にも痛い目見てもらわなくちゃ!」



女の子達はそのまま校門を出ていった。



「…………」



大地は少しの間、その場でずっと立っていた。


そして我に帰るや否や教室に向かって走る!



大地達の教室に近づくと誰かが泣いている、鼻をすすっている音がした。



「うっうう……えぐっ…えぐっ」


大地はそおっと教室の扉から顔を出す。


そこには一人で箒とちりとりを持ち泣きじゃくりながらも必死に掃除をしている加恋の姿があった。


ゴミを取っているということは掃除が終わりかけなのだろう。

この小学生には大きな教室をたった一人で掃除をしていたのだ。



「うぐっ……うぐっ……なんで私ばっかり……」



教室からは加恋の泣きじゃくる音しか響いてこない。



「ん?おぉ学級委員長、掃除は終わったのか?なら帰ってもいいぞ!お疲れ様!」



先生は教室に入り加恋が掃除を終えてるところを見てもう帰ってもいいと促す。



その場には加恋しかいないことに何も疑問を持たずに……。



「……はい……帰ります……先生……さようなら……」


「あぁさようなら!」



加恋はランドセルを持ち、先生と一緒に教室を出た。


大地は反対側の扉で隠れていた。


なぜ隠れていたのか大地本人も分からない。


加恋に自分を見られたくなかったのか、はたまた加恋のあの表情を見るのを耐えられなかったのかもわからない。



ただ一つ分かったことがあった。


それは自分がこれから何をするかだった。



手が痛い。


隠れている時、ずっと手を握っていたからだろう。


でもこの痛みよりも加恋はもっと痛がっていたんだと思う。



誰にも助けてとは言えない。

いや加恋は言えないんだ。


他人に仕事を押し付けるより自分がやった方が他人は苦しまないし、辛くない、そういう優しい考えを持っているからだ。


だからこそ頼まれた仕事は嫌と言えないし、自分から仕事を他人に任せることもやらない。




気づけば良かった。


最近、加恋が辛そうにしているあの顔を見て。


加恋のテンションが低かったところから。


あの加恋のパンパンに膨らんだランドセルから。




加恋は何も悪くなかったんだ。



僕がやらなくちゃ……。








「おぉ!やっと帰ってきたな!大地!さっ遊ぼ!」


「美沙ねぇちゃん……今日は教えて欲しいんだ……」


いつもの大地のテンションとは違った。



「ん?何を?子供の作り方ならじっくり教えてやるが……?」


美沙はふざけたつもりだったが大地は真剣な表情をして答えた。


「母さんとねぇさんがいつも言い合ってる時よく言ってるよね……悪口……。その言い方を教えて欲しいんだ」



「……大地……何があったんだ?」

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