第43話 思い出話Ⅳ

夕礼が終わりみんな帰る支度をしはじめた。


この学校では掃除係が交代で決まっており、掃除係は少しの時間掃除をするということでみんなよりも遅く帰るのだった。


「めんどくさいなぁー」


「大地、口じゃなくて手を動かせよ?」


「はーい」


よっちゃんと大地は掃除係で渋々掃除していた。



「ごめん!委員長!じゃあ頼むね!」


「うっ……うん……」


大地が扉の方を見ると男の子が加恋に何か頼んでいる様子だった。


すると加恋は箒を持ち始めた、



「あれ?加恋も掃除係だったけ?」


「違うんだけど……下田くんが用事があって変わってくれないって頼まれたの」


「いいのか?帰るの遅くなるぞ?」


「大丈夫!今日はピアノの練習はないから!」


「じゃあ俺たちも早く帰るためにちゃっちゃと終わらせますか!」


「「おぉぉ!」」









「じゃあ帰るか!」


掃除が終わり、他のみんなも帰り始めた。

大地と加恋とよっちゃんは同じ方向に帰るために一緒に帰ることにした。



三人は学校の校門へと歩いて行く。


すると校門に近づくとまたあの女の子達が誰かを待っているようにいた。



「あっ!大地くん来た!」


「ねぇねぇ!大地くん!一緒に帰ろ!」


女の子達は大地を誘う。

大地が来るまで少し待っていたらしい。



「いいけど……みんな僕たちの家とは真逆じゃない?」



たしかによっちゃんと加恋と大地は同じ方角なのだが明らかにこの子達とは違う方向なのだ。



「いいじゃん、いいじゃん!」


「私たち一緒に帰りたいだけだし」


「いやでも……」


大地は困った顔をする。

大地を助けようと思いから加恋は口を開いた。


「私は元の道で帰った方が良いと思う!もう遅いし、危ないと思うから!」


加恋は女の子達に向かってはっきりと意見を言った。



「え?」


女の子達も意外だったのだろう、加恋がそんなことを言うとは思ってもいなかったためみんな顔を見合わせた。



そしてある子が口を開く、


「加恋ちゃん……どうしてそんなこと言うの?」


それに続くようにまた違う子も言い始める。



「というか、加恋ちゃんが決めることじゃなくない?」


「実は一緒に帰るのを邪魔されたくないとか?」



女の子達は加恋に次々と問い詰める。

三人ほどに言い寄られているため加恋は少し泣きそうだった。



すると加恋の前に大地が立って言い放った。



「あのさ、やっぱり加恋の言う通りみんなこのまま真っ直ぐ家に帰ろ?加恋は別に邪魔されたくないとかじゃなくて君たちのことを思って言ったんだから!」


「確かに今じゃ不審者も多いからな真っ直ぐ家に帰った方が良いと思うぜ?」


「………」



女の子達は何も言えず顔を見合わせる。



「……わかったわ、大地くんの言う通りこのまま帰るね?」


「いこいこ……」


「大地くんじゃあね!……あと……」


女の子達は帰って行った。


しかしその顔は素直に納得した感じじゃなく少し不満を持った面持ちだった。






「ふぅ……じゃ帰ろっか?」


ひと段落ついたのか大地は息を漏らした。



「……ありがとうね、大地」


「ん?何が?」


「守ってくれて」


「別に守ってないよ?ただあの子達が帰る時間遅くなるのは心配だし、あとぞろぞろと帰るの好きじゃないから!」


「なんて言って、ちょっとカッコいいとか見せつけたかったんじゃないのか?」


バシッとよっちゃんは大地の頭を笑いながら叩く。



「ちっ違うよ!」


「なんだ?赤くなって?」



ケラケラと笑いながら大地を見る。



「もうおちょくらないでよ、よっちゃん!行こ?」


「はいはい……というかあの子達なんで俺にはバイバイしてくれなかったんだ!?」


突然思い出したのかよっちゃんは頭を抱えた。



「よっちゃん完全に空気になってたんじゃない?」


「はあ!?こんなにも存在感があるのに?」


「よっちゃん、体が大きいからって存在感があるとは限らないんだよ?」


「お前……悲しいこと言うなよ」


「ふふふ……よっちゃんは大丈夫!大きいからすぐに分かるよ?」


泣きそうだった加恋は笑い始めた。


そして三人は校門を出て歩いて行った。






よっちゃんと別れて大地と加恋は二人で帰っていた。



「あっ!そうだ忘れないうちに渡しておくね!」


「何のこと?」


加恋はランドセルから一冊の予定帳を出した。



「あっそれ!俺の!」


「アンタどうせまた予定帳書くの忘れそうだったから私が書いといたのよ、一緒に」


「なんだよ、そうだったのか!ありがとう加恋!」



大地は加恋から予定帳を受け取った。


見ると確かに細かく綺麗な字で書かれていた。

これで宿題も忘れずにできると思い大地は嬉しそうな顔をした。



「そうだ!予定帳書いてくれたお礼に一個とんでもないこと教えてやる!昨日美沙ねぇちゃんから教えてもらったんだ……」


「え、なになに!?」


加恋は大地の顔を覗く。



「ジャンケンの必勝法だ!……これは誰にも言っちゃいけないぞ。しかもこれは効果があることを実証済みだ!」


「なになに!早く教えて!」


ここまで言うのだ、すごいものなのだろうと加恋は期待し待っていた。



「それはな、最初にパーを出せば大体勝てる……だ!」


「えぇぇ?ほんとうに?」


加恋は驚きながらも疑っていた。



「ほんとうだぞ!昨日ねぇちゃん達とジャンケンしたけど、全部最初にパー出したら勝てたんだ!」


「マジで!?私もやってみようかな……」



これは後に分かる事だが大地がジャンケンの必勝法を教えてもらった日、美沙達は口裏を合わせて大地とジャンケンをするときは最初にグーを出そうと言っていたのである。



それを知った大地は数年間騙されていた事実を知ると同時により一層姉達のことを嫌いになったとか……



「ちゃんとお前に教えてやったんだからな覚えておけよ!」


「うん!分かった!」


二人は家に帰って行った。




「おかーさん、ジャンケンしよ!」


「え?いいけど……」


「「最初はグー、ジャンケン……ポン!」


加恋の母はグーを出し、加恋はパーを出していた。



「やったー!勝ち!……やっぱり大地の言う通りだ!」


この事で自信がついたのか、加恋はこれからジャンケンの時は無意識に最初にパーを出すことになる。


実際、加恋はそれが嘘のことでもそれを証明する証拠や証言があればほとんどの事で信じてしまうという悪い癖があったのだ。


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