第42話 思い出話Ⅲ

「よーい……ドン!」



生徒たちは合図で一斉に走り出す。

小学生のその小さな足でゴールに向かって走る。

この時間は体力テスト、50メートル走のタイムを計るのだ。



「よっちゃん!勝負だ!」


「ふっふっ……大地?俺が負けるとでも?」



スタート地点に大地とまんまると太った体型が特徴の坂下義経……通称よっちゃんが並ぶ。



「流石にそのゴローニャみたいな体型のよっちゃんには負ける気がしないね」


「……これがただの脂肪に見えたならお前はもう負けたと言っても過言ではないな……」


「何!?」


「位置についてよーい……ドン!」


先生の合図と共に二人は走り出した。







「ゼェゼェ……」


「やった〜!勝ったぞ!ほら言ったでしょ?負ける気がしないって!」



結果は大地の圧勝……よっちゃんは今にも吐きそうだった。


「助かったな大地、俺が全力を出せない状態だったことに……俺が全力出してたらお前多分吹き飛んでたぞ?」



息を荒らしながら必死の言い訳をするよっちゃん。



「先生!僕のタイムは!?」


「おい!聞けよ!?」


大地はそれを無視してタイムを計測している先生の元へ向かう。



「西野が6秒72で坂下が10秒47だ」


「えぇぇぇ!?」


「どうした?大地?」


大地はタイムを聞くや否や驚いた声を発する。



「おかしいよ!よっちゃん!僕の方が早く着いたのに数字が小さいくてよっちゃんの方が数字が高いんだ!」


「何言ってんだ?お前?」


「だってさ、数字が高い方が強いんじゃないの!?ドラクエとか数字が高い方が強いじゃん!」


「はぁ……大地お前よく今までそれで生きてこれたな」


よっちゃんはため息を漏らす。

そして大地に同情するように悲しい目で見た。



「おかしいよ!もう一回やろ!ねっよっちゃん!」


「これ以上俺に醜態を晒させるのはやめてくれ大地……」





「ねぇねぇ!大地くんてさ頭ちょっとバカだけどさ、足早くてスポーツ万能なのってカッコよくない?」


「あっそれ私も思った!」


「いいよね〜私告白しちゃおっかな?」


「え〜よしこちゃん、言っちゃうの〜?」


タイム計測の順番を待っている間、3、4人の女子たちが大地の話で盛り上がっていた。



クラスでは大地は割とモテる方だったのである。


「あ!そうだ加恋ちゃんって大地くんの幼馴染なんだよね?」


1人の女の子が加恋に聞く。



「うっ……うんそうだけど?」


「もしかして……大地くんのこと好きだったりして!?」


「本当〜?」


きゃーなどと顔を見合わせ軽くふざけながら女子たちはさらに盛り上がる。



「ちっ……違うよ!大地とはそんなんじゃなくて……」


加恋は誤解されては困ると思い否定しようとする。



「じゃあさ、私が大地くんに告白してもいいよね?というか上手くいくように協力してくれるよね?」


「えっ……えっと……」


「次の人〜準備しろよ!」


先生が次にタイムを計る人たちを呼びつける。



「はぁ〜い!……じゃあよろしくね〜」


順番がきたのか、女の子たちが立ち上がりスタートラインへと向かっていった。



「ちょっちょっと!?わっ私何も言って……どうしよう……」


加恋は女の子達を呼び止めようとしたが虚しくそれはできなかった。







「それじゃあこのクラスの学級委員長はコーン片付けといてくれよ〜」


授業は終わり、先生が加恋に声をかけ頼んだ。


他の生徒達は疲れたのか急いで教室に戻っていく。




「加恋!僕も手伝おっか?あとよっちゃんも」


「なんで俺も入れるんだよ!?」


大地は加恋だけでは少し可愛そうだと思ったのだろう。

みんなと同じように戻らず加恋の手伝いをしようとしていた。



「あっ……じゃあおねが……」



「ねぇねぇ!大地くん!こっち来てお話ししようよ!」


向こうの方でさっきの女の子達が大地を呼んでいる。

その中にはさっき大地のことが好きと言っていた女の子もいて、こちらをずっと見ていた。



「ごめん!今から加恋の手伝うから……」


大地は断ろうとする。



しかし加恋は……



「行ってきていいよ!大地!……私は一人でもできるから……」



「え……?いやでも手伝って欲しそうだったじゃん、やるって……」


「ーーいいって言ってるでしょ!」


加恋は声を荒げて大地に言い切った。



「そっ……そっか……」


加恋が声を荒げることは想像してなかったのだろう。大地は少し驚いていた。



「……大地行こうぜ?」


よっちゃんも少し驚きながらも大地を連れてその女の子達の方へと向かっていった。




「なんであんな事言っちゃったんだろう……」


加恋は一人でコーンを片付け始めた……。







「はぁー!疲れたー!」


みんなが予定帳書いている時間、大地とよっちゃんが教室に帰ってきた。



「こら西野!もう昼休みも終わって予定帳書く時間も終わったぞ!どこ行ってたんだ!?」


先生は怒鳴る!



「よっちゃんがろうにょう病ってやつになっちゃって遅れました!」


「先生!そういうことで遅れました!」


「西野……それを言うなら糖尿病な?あとそんなんになってたら坂下お前これからお菓子とかデザートが給食に出ても一切お前にはやらんからな?」



「先生!実は西野くんがもう少し遊んでたいって言ってました!」


「えぇぇ!?なんで裏切るの、よっちゃん!?」


「すまんな大地、大切な人が人質に取られたんだ……」


「よっちゃん……」


「もういいから早くお前らも書けよ?時間はないが……」


たしかに時計を見るともう予定帳を書く時間は終わり、掃除の時間になろうとしている。




「あれ?僕の予定帳がない?おかしいな……」


引き出しを見ても一向に大地の予定帳は見つからない。


「はっはっ!大地お前どうせ忘れたんだろ?」


よっちゃんはそれを見て笑う。



「そんなことはないよ、よっちゃん!だってランドセルの中身昨日から入れ替えてないから!」


「お前……昨日と今日の授業と全然違うけどいいのか、それで?」


「うん!前、国語と算数忘れて二回ずつめっちゃ怒られたから、それならいっそ『全部忘れました!』って一回謝れば怒られるのは一回でしょ?そっちの方がいいかなって!」


「お前のその清々しい考え方、俺は嫌いじゃないぜ?」

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