第41話 思い出話Ⅱ

「……それでね!そのバレーの試合は青のチームが勝ったんだけどキャンプテンの人がこう……バーン!ってアタックしたの!」


加恋はバレーのスパイクを不慣れな感じで真似している。



「昨日やってたんだ?知らなかったなぁ」


「大地も見れば良かったのに!……バレーってなんかねカッコいいの!球をあげてズバババ!ってアタック決めるところとか、私もやってみたいなぁ〜」



朝からテンションが高い加恋に昨日も夜更かしをした大地はついていけない様子だった。



「確か近所の体育館でママさんたちがやってるらしいからやってこればいいのに」


「……無理だよ、お母さんが許してくれないよ……危ないからって……」



加恋は俯き、歩くスピードが遅くなった。


「ふーん、そっか……」




「そ、う、い、え、ば、大地、宿題ちゃんとやったでしょうね?」


加恋は大地の顔を伺った。ギクッとした表情を見せて大地は口笛を吹きながらよそ見をし始めた。


「えーと……昨日は体の調子が悪くて……」


「どこの調子が悪かったのよ?」


「……急に右腕が動かなくなって」


大地は右腕を抑える真似をする。



「はぁ……調子が悪かったのは頭だったみたいね」


加恋はいつもの言い訳と思いため息をついて呆れた表情をした。







「じゃあ……次の問題!誰に当てようかな……」


大地たちは今現在理科の授業を受けている。



「スピー……スピー……」


いつものように大地は寝息を立てながらスヤスヤと寝ている。

今回に限っては理科室ということもあり、いつもの机ではなく綺麗な机なのでより眠気を誘ってしまったのだろう。


「……大地、起きなさいよ……」


加恋は小声で大地を起こす。


「んん……やった〜……グリフィンドールだ……」


「……アンタ……どんな夢みてるのよ……ほら先生がこっち見てる……」


先生は誰に当てようか周りを見ていたが寝ている大地を見るや否や指を指して大地を当てた。



「じゃあこの問題は西野に答えてもらおうかな!西野!起きろ!」


「んん!はぁ〜あ よく寝たーーん?何か言った?先生?」


「あぁ……言ったぞ、前に来てこの問題を解いてみろ!」



先生が黒板を指差す。

黒板には「問い 種子が発芽するには( )と( )と( )が必要である」と書かれていた。



「ふふっ!こんな問題簡単ですよ?……こうですよね?」



大地は前に行き、自慢げにスラスラと黒板にチョークで答えを書き出した。


「どうですか?先生?」


「……おい西野、どうやって考えたら種子の発芽に必要なのが努力、友情、勝利なんて答えが導き出されるんだ?俺には理解できんのだが?」


「まぁ確かに先生が理解できないのも分かりますよ?どうやら僕の才能が出てしまったんですね」


「いや才能が出るどころか引っ込んでるぞバカ、間違ってるんだよ、この答えじゃ!」


「そんな!これじゃあ発芽できないんですか!?」


「当たり前だ!これで発芽できるのは週刊少年誌だけだ!」


「それじゃあ……これですか?」


再び大地はチョークで答えを書く。



「なになに?お砂糖、スパイス、ステキなものをいっぱい?お前はパワパ◯ガールズか」


先生はバシッと大地の頭を叩く。



「先生、ヒントくださいよ!こんなんじゃ分かるわけないじゃないですか!僕のニワトリ並みの大きな脳を舐めないでくださいよ!」



「ちなみに西野ニワトリの脳は恐ろしいほど小さいんだが……分かったヒントをやろう。一つは適切な温度、二つ目は空気、あと一つはなんだ?海にたくさんあってみから始まるものだぞ」


周りの子たちがクスクスと笑っている。もうほとんど答えが出ているからであろう。



「先生分かりましたよ?流石にヒント挙げすぎですよ、こんなのできなかったらもう一回小学一年生になってやりますよ!」



再び大地はチョークを持ち黒板に書き始めた。

デカデカと大きな字で……



水着……と!




「……西野、小学校一年生からやり直してこい」


「えぇぇ!?なんでですか!?」


「バカかお前は!どうしたら、適切な温度と空気と水着で発芽するんだ!?」


「やっぱり種子も男だから水着に興奮して発芽するかなって……」


「どんな仕組みだそれ!?……はぁもういい西野お前は座れ」


「はあーい!」


大地は元の席に戻った。






「よぉ〜し、これで授業は終わりだ!」


「よっしゃ!休み時間だ!外で遊ぶぞ!」


大地は他の男子に声をかけ始めた。


「そういえば、このクラスの学級委員長は誰だ?」


先生が声を出してみんなに聞く。


「私です!」


加恋が手を上げて先生の元に向かった。

実は加恋はこのクラスの学級委員長だった。


「そうか、じゃあこのみんなが提出してくれたノートを職員室に持ってきてくれ、あと理科室の鍵も返しておくように」


「はい、分かりました」


学級委員長はこういう雑務を任せられることが多い。そのせいでみんながあまりやりたがらなかったところ加恋がやることになったのだ。



「よいしょっと……」


加恋は重そうにノートを持つ。

それを見かけた大地は……


「加恋、持とうか?」


「このぐらい大丈夫だよ、大地は遊んできたら?」


「おっおぉ…」


そして加恋はノートを持ってすぐに理科室を後にした。


その背中はなんだか寂しく感じ、いつもの加恋とは違い壁を少しだけ感じた。

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