第31話 さらば

「見て!透、多分あれが5組の人たちじゃない?」


 歩いていると前の方に生徒達が何人か集まっていた。

 その近くになんだか見たことある3組のやつがいた。



「あれ?加藤くん、何やってるの?」


「げげっ!青野達!? 何でここに!?」


 加藤くんはここにいることがバレたくなかったような面持ちだ。



「加藤!アンタ、ここにいるってことは……」


「きっ奇遇だな?アリーナもここで休憩か?」


 加藤くんは足がガクガクしている。それもそうだろう、今さっきLINEで透が言っていたことを知っているはずだから。



「加藤……どっちか選べ」


 透が鬼の様な形相で加藤くんを見ている。



「え……どっちって何を?」


「右半分の骨を全部折られるか……左半分の骨を折られるか」


 どっちにしろ体の半分の骨は折られるのか……。



「ひぃぃっ!! お前ら何怒ってるんだよ! 俺が何したっていうんだ!」


「まだしらばっくれるか……。じゃあ全部折ってやる」


 残酷な第三の選択肢。



「もはや君には加藤って名前は贅沢だよね、クズって名前がお似合いじゃない?」


 僕には歩が某湯屋の経営主である顔デカ魔女にしか見えなくなってきた。



「何って加藤くん……。揉んだんじゃないの?」


「ギクッ!……なっ何を言ってるんだ?西野?」


「10枚を使っておっぱい、一揉みしたんじゃないの?」


「おっおっぱいとか乳とか乳房とか……俺が揉むわけないだろ?」


 コイツ嘘つくの下手くそか。



「仕方ない……そこまでシラを切るというなら俺にも方法があるぞ? 柳瀬!動画を流せ!」


 動画?何のことだろう。



「?」


 加藤くんも不思議そうに見ている。


 柳瀬くんがカタカタとパソコンを鳴らし、パソコンをみんなに向けた。


 一つの動画が再生される。



「ーー本当にこの10枚で一揉みできるのか?」


 そこに映し出されたのはバレないようにコソコソと周りを見ている加藤くんだった。



「ええ!……もちろんです、でもいいんですか?クラスに相談しなくて」


 もう一人は5組の生徒だろう。ここまで聞けばもう加藤くんの犯行が分かるけど動画は続く。



「いいんだよ、どうせあのクラス、バカしかいないからな、はっはっ!」


「貴方も悪い人ですね……はっはっ!」


 ここで動画が止まった。



「さて、今からこれをクラスのみんなに見せようと思うが……」


「すみませんでした!!!」


 すぐさま加藤くんは土下座をした。


 うん、清々しいほど綺麗な土下座だな。



「つい魔の手がさしたというか、申し訳ありませんでした!」


 加藤くんは精一杯謝っていた。



「アンタねぇ!クラスの大事なカードを犠牲にして!」


「まぁよせよ、アリーナ、過ぎてしまったことはしょうがない」


 おっとこれは意外だ。透が止めている。



「いいの!? 青野、コイツがお咎めなしなんて!」


「人には誰にだって過ちはあるさ、それを俺はあまり責めたくないんだ」


「青野……」


 透は土下座をしている加藤くんに手を差し伸べた。



「加藤……これからカード集めに必死になってくれるな?」


「あぁ……もちろんです!青野さん!」


 透は女神のような笑顔で加藤くんを許していた。


 あぁ……そういうことか。



 加藤くんは立ち上がり、カード集めに走り去っていった。



「青野……あんなに甘くていいの?」


 アリーナは透に声をかける。


 透は加藤くんが消えるの確認すると……。



「おい、柳瀬!今すぐ動画、グループLINEに送れ!そしてついでに「加藤を見かけたら一人十発殴ってもいい」と書いておけ、アイツには本当の地獄を見せてやる」


 やっぱり透は怒っていた。



「とりあえずこのイベントが終わったら弾劾裁判して加藤の居場所を無くして、ありとあらゆる制裁を執行してやる」


「青野……アンタえぐいわね……」


 アリーナが若干引いていた。


 そう、透が満遍の笑みを出している時は、めちゃくちゃムカついている時しかないのだ。



「歩、お前のネットワークを使って加藤の悪評を出回らせろ」


「おっけー」


 加藤くん、今まで一緒に学校生活を送れて良かったよ……さようなら。



「ちょっとアンタら流石にやりすぎなんじゃない?」


 アリーナは少し加藤くんに同情してるみたいだ。


 すると柳瀬くんがパソコンの画面を再び見せてきた。写っていたのは3組の教室だった。



「ーーいやぁ〜 一番クラスで貧乳って言ったら誰だろうな?」


 流されたのは男子生徒二人の会話だった。


 あれ?もう一人は加藤くん?



「そんなもん、アリーナだろ!見てみろよあれ、もはや絶壁すぎてないにも等しいだろ!3組の万里の長城じゃないか?はっはっはっ!」


 高らかに加藤くんは笑っている。


 映像はそこで終えられた。



「……大地、今すぐ金属バット持ってきて、あと多分大きな空き缶もいると思う」


「ちなみにアリーナさん、それらは何のために?」


「決まってるでしょ?加藤をぶん殴って、海に投げ捨てるためでしょ?」


 アリーナは真顔で答えた。もはや同情の余地はないらしい。


 加藤くん、この時期の海は少しあったかいから気持ちよく死ねると思うよ……元気でね。

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