第27話 次回、西野死す!

「こっちはボクのカードと大地のカードを合わせて約40枚!勝負呑んでくれるよね?」


「あぁいいとも」


「それとあともう一点……」


 歩は有田君に一つの提案をしようとしている。

 表情がうっすらとニヤケている。あぁ……この顔した時はコイツはとても悪いことを考えている。



「勝った方は負けた方になんでも一つ命令できるっていうのを付け足したい」


「ほほぉ……。それはこの俺がお前に今から女子の下着千枚持って来いといえば持ってくると?」


 有田君がなんでその例を出すかは兎も角、歩は割ととんでもない賭けをしようとしていた。



「お前が勝ったら俺のカード32枚と俺に命令できる権利を譲渡する。負ければ、その逆でお前らのを貰う、それでいいな?」


 静かに歩はうなづいた。



 ……そういえば、僕はちょっとした反則技を使ってカードを大量にゲットしたけど有田君はどうやってゲットしたんだろう?



「あのさ、その大量のカードってどうやって手に入れたの?」


「これか? 普通にゲットしたぞ? 精一杯土下座してカードを渡すか、パンツを見せてくれるかを選ばせて」


 彼にとっての普通とはなんだろう。



「頼んだ人の半々がカードを渡してくれて、残りはどっちも嫌って言ってたなぁ……。まぁもう一つの選択肢選んでくれた人もいたけど……」



「……ゴクリ……」


 息を呑んだ。

 この学校にパンツを見せてくれる人がいるのか!?そのことを知れた僕の行動は一つ……。



「有田君……いや有田さん!どうか僕にその人の名前を!」




「よーし、じゃあ勝負始めよっか!」


「いいぞ!」


 僕の声は届かず、二人の勝負は始まってしまった。







 二人の勝負は至ってシンプル。

 女物下着ブランドを山手線ゲームの形で言い合うというものだ。一人が言った3秒以内に相手は言うその繰り返しだ。

 言えなくなったら負けである。



「じゃあ俺から言わせてもらおう……」


「ワコール!」


「アンフィ!」


「アキュート!」


「ラヴィジュール!」


「ピーチジョン!」


 二人は3秒もかからずすぐに言い放つ。

 すごいを通り越して見ているみんなは少し引き気味だ。

 それには二つの理由がある。


 一つはこの男子高校生達がなぜそんなに女物の下着メーカーの名前を知っているのか、もう一つは自信満々にそれを言っているからである。まあまあ大きな声で……。



「エッセンスバイトリンプ!」


「サルート!」


「スハダ!」


 するとだんだんと人が集まってきた。おかしな事をしてるんだ。人が集まってもしょうがない。



「おい、見ろよ、変態と歩様がなんか言い合ってるぞ? 何言ってるんだ?」


「んー……新しいポケモンの名前でも言ってるんじゃないか?」



 普通の男子高校生ならこのように下着ブランドの名前を知らず、ポケモンの名前と勘違いするほどだ。

 言い合ってるアイツらがどれだけ異常かが分かる。


 ……というかポケモンの名前は無理があるだろ、スハダなんてポケモンが出てきたら僕なら絶対育てないけど。




「……なかなかやるな……チュチュアンナ!」


「君もね……トレフル!」


 二人は一進一退の攻防。


 ノーガードで殴り合ってるみたいだ。僕の目の錯覚だろうか、二人の後ろには「オラオラオラオラ!」とでも言わんばかりの屈強な幽霊が見えるが……。



 集まった人たちの中にはもちろん女子もいて、二人が言い合っている単語の意味が分かった人もいたみたいで怪訝そうな顔をする人、二人をゴミみたいな目で見る人など数人がいた。



「ん……? あれって林君? 何やってんだ?」


 観客の中に歩のファン第一号である林君の姿が見えた。二人の戦いを見るというよりは他に何かしようとしている。


 ……あ、女子に話しかけた、なんか説明してるみたいだ。



 するとさっきまでゴミを見る目で見ていた女子達は林君と話し終わった次の瞬間、歩の事を見て涙を流し始めた。



「そうか、歩の地位が落とされることに同情しているのか、いい子達じゃないか」



 その女子達は次に僕を見た。

 さっきの涙を流す顔とは打って変わって、僕にはゴミを見る目で見始めた。さらに中指を立て威嚇している。



 え? 僕なんかした?



「透! なんか急に周りの女子が僕を見て殺意を沸かしてるんだけど!?」


 透は愚問だなと言わんばかりに僕を見て答えた。



「そりゃそうだろう、歩が林に頼んで、自分は大地にこの戦いを無理やりやらされたと広めてるらしいからな」


「あんちきしょぉぉぉ!!!」



 やりやがったな!あの野郎!

 だから歩はあんな堂々と戦いやがってたのか!



「こうしてはいられない!今すぐ誤解を解いてこないと!」


 僕は急いで観客の方に行こうとした……がしかし、透と柳瀬君に手を掴まれた。



「どこ行こうとしてるんだ、大地!親友が一生懸命戦ってるんだぞ!?」


「知るか!僕にあんなクズの親友はいない!」


「……自分の名誉を生贄に……カッコイイな真下歩という男は……」


「違うからね!? 自分の名誉なんで微塵も生贄にしてないよ!? むしろ僕の地位を生贄にしてアドバンス召喚してるからね!?」



 あぁこうしてる間にも拡散されてる!


 もうやめて! 西野大地のライフはゼロよ!




「諦めろ、大地ここで何言ったってみんなお前を信じるか?」


「ええぇい!放せ! 僕は黙ってももう一人の僕が黙ってないぞ!」


 コイツらなんでこんな力が強いんだ、全然抜けれない!

 僕の千年パズルよ反応してくれ!




「この戦いが終わったら真下がみんなにもう一度誤解を解くと言ってた」


「そんなの信じれるかぁ!」


 そう言って僕は何度も騙されたんだ。

 もう騙されないぞ!



「……しかも女の子を紹介するとも……」


「頑張れ! 歩! ここが正念場だよ!」


 この勝負負けられないな!



「お前は清々しいほど気が変わるのが早いな」


「……今さっきまでクズと言ってたやつを応援するとは……」


「何言ってんだ? 二人とも!さっ応援しよう!」


 アイツとはこれからも親友なんだから。

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