第26話 変態という名の怪物

「手段はどうあれ大地がそれだけのカードを得てるのはでかいぞ、上手くいけば勝ち逃げできるかもしれん」


「どういうこと?」


「いいか?これから大地は自分と同等の数又はそれ以上の人としか相手するな、これは鉄則だ」


 透が険しい顔をしている。こんな顔をしてるっていうことは絶対に守らないといけないみたいらしい。



「しつこく相手しろって言ってきたら?」


「そいつを拘束した上でグラウンドを引きずり回してやる」


 おぉぉ……。えぐいなぁ。



「現状、少ない数の奴に取られたりしたら痛い。なるべく対戦は断り続けろよ」


「うん……でもさ、僕以上の人見つけるって言うけどそんな簡単には……」


「それには及ばない……」



 プルルルルと透の携帯が鳴り始めた。


 ピッと透は通話ボタンを押すと、




「HQ!HQ!」


「こちらHQ……どうした?」


 ス◯ークが通信してるかのようなスタンスで電話が始まり出した。……この声は柳瀬君?



「カードを30枚以上所持している目標発見!交渉仕掛けますか?どうぞ?」


「……でかした、こちらもすぐ向かう、足止めしといてくれ、どうぞ?」


「……ただ相手は……なんでもない、こちらからは以上だ」


 ん? なんだ気になること言ってたような……。



「よし、柳瀬の元に俺たちも向かうぞ!」


「ねぇ、透思ったんだけどさ、大地が今さっきまでやってた事を学年の女子にやればまどろっこしい作戦しなくても良くない?」


 ……何言ってんのこのバカは?



「おぉ……たしかに!」


 それは考えになかったと言わんばかりにポンと手を鳴らす透。




「いやいや! 一人でもあの暴力の量だよ!? 学年全女子にやったら僕、何回殺されると思ってんの!?」



「2回ぐらい転生しても足りないくらいだな」



「転生してスライムになってもすぐ殺されちゃう勢いだよ!?」


 スキル捕食者とか言ってる場合じゃない、逆にこっちが捕食されちゃう。



「大地がスライムになるなんて……スライムが可哀想……」


「いや逆でしょ!? 僕が可哀想にしといて!?」



 たしかにスライム側からしたら転生したスライムが大地だった件になるけども!……そんな可哀想じゃないでしょ?



「まぁ茶番はこの辺にしてそろそろ向かうぞ?大地たん」


「いや、僕の人生ゼロから始まってないからね!?」


「Re:ゼロから始まる悪口童貞生活……」


「何さらっと悪口言ってんの?歩さん……」


 殺されても「死に戻り」とかしないからね!?


 何だかんだ言って僕たちは柳瀬君が待つところへ向かっていった。








「いたぞ」


 柳瀬君はこっちを見て手を振っている。



「おーい!柳瀬君!」


 僕らは柳瀬君の元に近づいた。



「それで相手は?」


「あぁアイツだ」


 柳瀬君は後ろを振り返り指を指す。



 指を指した方向には少し小柄な男子がいた。こう言っちゃ悪いが背はだいぶ低いと思う。

 僕たちの方が余裕で大きいし、加恋よりも小さいんじゃないのか?


 その男子はこちらを向き、近づいてきた。



「アンタらが俺と戦いっていう人たち?」


 男子は挑戦的な目をして僕らに問う。



「おい……柳瀬?」


「すまない……とりあえずこいつしか見つけれなくて」


 透が柳瀬を睨む。まるでこいつはやめて欲しかったと言わんばかりに。



「えっと……君は?」


「ん? 俺を知らないか? じゃあ自己紹介するぞ……」


 そう言って彼は大きな声で叫んだ。



「俺は有田典良! 好きなものは女の子! セクハラが趣味だ!あとそのセクハラで女子が俺を嫌がる顔を見せたなら、なお良い! 将来の夢は全裸の女の子たちに囲まれて生活を送ることだ」



 突然の変態発言に僕を含め、周りの人たちは絶句した。

 ここまで自信満々に自分のことを説明できる人はそんなにいないだろう……ただ中身は下品だが。



「おぉ……」


 歩が有田君の自己紹介を聞き、半歩ほど下がった。この部類には触れちゃいけない……。本能がそうさせたのだろう。



「えっと……有田君? 話を変えるかもしれないけど……君、カードをたくさん持ってるんだよね?」



 なんとか彼のペースに持っていかないようにしたい。



「あぁ持ってるぞ? 西野君だったっけ?」


 ん? なんで知ってるんだろう僕の名前……。



「君、どっかで会ったっけ? なんで僕の名前知ってるの?」


「いや、今日初めて会っただろう。だが俺は知ってるぞ学年でお前は有名だしな」


 コイツに言われるのはなんだが癪だな。



「友人に聞いたところだと俺よりもお前の方が度を超えた変態と聞いたんだが、本当か?」


「その友人の名前教えて? 今すぐコロスから……」


 リコーダー30コ盗んだ奴よりも変態?侮辱をするのもいい加減にしてほしい。



「まぁ変態はともかく女の子を不幸にさせて泣かせるのはピカイチだよね!」


「歩は黙ってなさい!」


「本当か!? 俺も負けてなれないなぁ……」


 いけない……この変態にライバル視されてしまう、それは今後の生活に支障をきたしてしまう。それだけは避けないと……。



「……アイツが気になってるのも分かるなぁ……」


 有田君は何かを呟いていた。




「それはそうとどうやってカードを奪いあうんだ?」


 透はパンパンと手を叩き、話を戻した。



「おぉ!そうだったな!……俺が待ってやったんだから俺に決める権利はあるよな?」


 有田君は透の顔を見る。



「……まぁいいだろ、だがこっちにも断る権利はあるんだからそこんところ常識を考えて決めろよ?」


「分かってるよ……うーむ……」


 有田君は少し考える仕草をして、手をポンと叩いた。


「そうだ!女物下着メーカーの言い合いっこで言えなくなったやつが負けにしようぜ!」


 コイツに常識という言葉はないのか。



「ねぇ……男子同士が下着メーカーの言い合いっこしてるの、側から見たら地獄絵図になるからもう少しマシなのにしてくれない?」


 年頃の男子高校生が女性物下着メーカーを連呼してたら先生に病院へ行けとでも言われそうだ。



「そうなると、女子のスカートめくりの数競争、女子に下ネタ何回言えるかっていう競争ぐらいかな〜」


 おかしいな……まともな戦いがない気が。



「透、彼と戦う事はやめに……」


「大地!」


 歩が僕の提案を止めた。


 僕は少し驚き、続きの言葉が出なかった。



「この勝負……ボクがやるよ!」


 歩は高らかに宣言した。



「ほぅ……。一人やる気があるやつがいたみたいだな」


 有田君は腕を組み、余裕そうにしている。



「歩、いいのかい!? この勝負が終われば君の学校での地位は……」


 こんな人がいる中で下着ブランドを連呼するんだ。後日、学校での注目のマトになるのは避けられないだろう。



「……地に堕ちるだろうね……でもこのイベントで勝つためさ、仕方ない……」


 歩は決意をした顔だった。


 まさか歩がこんな勇気があるやつだったなんて!


 ……まぁなんか裏があるんだと思うけど。

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