第22話 験担ぎ
戦勝祈願の験担ぎを知っているだろうか?
昔、戦国武将達が戦に行く前に戦勝を願うために行う儀式がいくつかある。
例えば、兜の上に締める上帯の端を斬って捨てる行為がある。
上帯の端を切ることによって鎧を結んでいる帯を解けないようになり鎧を絶対に脱がないという決意を示す、つまり、決して逃げないぞという覚悟を示す儀式である。
これによって出陣前の部下を鼓舞し勝利をもぎ取るのである。
僕たちが入学して初めてのイベントが始まる今日、僕たちにとっての戦ということもあり験担ぎが行われようとしていた。
◯
イベントが始まるまで教室で待機ということで今はクラスのみんなが駄弁っている。
今日のイベントは昼から行われる。
それからは授業がない。
勉強もしずにこんな大掛かりなことをしてていいのかと疑問に持つがこの学校の校風だからと誰も口に出さなかった。
櫻子先生ら他の先生はイベントの準備で教室にはいない。
昨日、櫻子先生に脅迫まがいなことをされ、僕たちはどんな手を使ってでもこのイベントに勝たないといけなくなった。
そのためには僕たちだけではなく、クラスのみんなのモチベも大事ということを四人で話し合って結論を出した。
僕たち四人は教卓に上がった。
「みんな、聞いてくれ!」
クラスが騒いでいる中、透がみんなに聞こえるように話す。
「どうした? 青野?」
「青野が前に出るとか珍しいな!」
いささかまだ静かにならないがみんな透に気づき始めた。
「このイベントはみんなどんなモチベで行くつもりだ?」
まずは現状調査。
みんながどんな姿勢でこのイベントに臨むかを知っておきたい。
「めんどくさいけど、まぁ参加するかな〜」
「一位は無理かもしんないけど、三位ぐらいとかは目指したいよね〜」
「私は運動するとかだったら絶対隅っこで休むかな〜」
みんな各々違うモチベらしい。ただ基本的にめんどくさいが一番かな?
「俺がこんなこと言うのは意外かと思うけど今回のイベント……みんなで一位目指してみないか?」
これは意外だった。
透は少し回り道をしながら伝えるかと思っていたがストレートに話を始めた。
「えぇ〜 疲れのは嫌だぞ〜」
「なんか私、そういう意識高い系じゃないからね〜ちょっとダサくない?」
「分かる分かる! 運動会とかでみんなで頑張ろう!とかちょっと寒いよね〜」
「そもそも林間学校の部屋が良くなるって言ってもあんまし興味ないからな〜」
「なんか他にも賞品あれば別だけどさ〜」
みんなブーブー言って、あまりこちらの意見に乗り気ではない。
透はニヤッと「計画通り」と言わんばかりに笑っている。
そりゃそうだ、櫻子先生に頼まれた時も実際に僕らも断ってるんだ。
みんなもそんな簡単に提案を呑むわけがないだろう。
しかし僕たちはみんなの士気を上げるために仕掛けを用意しておいた。
まずは一つ、
「梅澤! お前はどう思う?」
透は後ろの方で椅子に座りながら必死に顔を見せようとしている梅澤さんに声をかけた。
「……わっ私は……良いと思います! みんなで一位になってみたいです!」
梅澤さんは小さい声を必死に出しながら透に返事を返した。
うん、今日も可愛いなぁ。
すると、男子の中の何人かが……
「まっまぁ? ……俺は最初から一位狙いたいと思ってたし?」
「お前そんな乗り気じゃなかったろ! 俺なんてこのイベントで一位になるためにそれなりに準備してたぜ?」
「はぁ? 何してたんだよ?」
「そりゃお前、チームワークを高める方法を探すために≪黒◯のバスケ≫読破したぜ?」
「おっ俺も≪ア◯ルの空≫読破してるし?」
彼らはバスケでもする気だろうか、完全に努力の方向を間違えてる気がしている。
しかしながら梅澤さんの応援は効果があったみたいだ。何人かの男は姿勢が変わっている。
続いての仕掛けは……。
透の方をチラッと見る。透と目が合い頷き合う。
「そういえば、櫻子先生が呟いていたなぁ〜 一位を取ってくれたらみんなにはご褒美をあげようかなって……男子には何て言ってたかなぁ〜」
透は思い出そうとしている仕草を取る。
「どうせ大したもんじゃないだろ?」
「お菓子とかじゃねぇの?」
「案外、500円とか? そんなんじゃ全然モチベ上がんないけどな」
千円ごときで櫻子先生に籠絡された奴がすぐ近くにいるのは黙っておこう。
ただみんなよほどの報酬じゃないと乗り気じゃなさそうだった。
「あぁ……思い出した! ……櫻子先生の撮影会だった!」
「青野俺たちは何をすれば良い?」
「青野、俺たちの目を覚まさせてありがとう、そして女神、櫻子に御身を捧げます」
「当たり前だろ! 俺も元々順位なんて一位しか狙ってねぇんだし!」
「一位……一位……他の順位はクソ喰らえ……」
ーー僕はこのクラスの男子の姿勢が大好きです。
透の目論見通り、クラスの男子たちは覚醒し出した。
しかし問題は女子だ。あのグラマラスなボディを持つ櫻子先生の撮影会という報酬で釣れるのは男子だけ。女子には何て言うつもりだ?
「確か、女子には……」
「北◯の拳の漫画全巻、全員にプレゼントと言ってたわ!」
「………、………」
空気が一瞬で氷ついた。
加藤が空気をぶち壊すレベルでのこの空気の変わりよう。アリーナは恐ろしい存在だったらしい。
「……というのは嘘で、ハイブランドのバッグをプレゼントとすると言っていた」
「「おおぉぉぉ!」」
透のおかげで凍っていた空気も溶け始めた。
アリーナの「え? 北斗嬉しくないの?」という声は今は聞かなかったことにしよう。
「ルイ・◯トン……」
「私やる気しかなかったんだよね!」
「シャ◯ル……」
「運動ドンと来なさい! 何やるの? 50メートル走?リレー?」
「バレン◯アガ……」
「ちょっとだれかゴム持ってない? 髪まとめるわ!」
女子な変わりようもすごかった。
歩がハイブランドの名前を次々と言うのと共にモチベがドンドン上がっている。
透は教卓を叩き、声を出した。
「俺たちはだれだー!」
「「王者3組!」」
「誰よりも撮影会を望むのはー!」
「「3組!」」
「誰よりもハイブランドを望むのはー!」
「「3組!」」
「誰よりも一位を狙っているのはー!」
「「3組!」」
「戦う準備はできているか!?」
「「おぉぉ!」」
「我がクラスの誇りを胸に狙うは一位のみーー行くぞぉ!」
「「おぉぉぉぉぉ!」」
ダ◯ヤのエースの青◯高校ばりの声かけのように僕たちは気合いを入れてイベント前に気合いを入れ直した。
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