第21話 帰り
櫻子先生の交渉が終わり、僕は帰りの通学路を歩いていた。夕方なのだが人通りは割と多い。
会社から帰宅途中の人、学校の部活帰りらしき人も何人かいた。
「ほいっと!」
後ろから誰かに頭を叩かれた。
誰だよ! 普通に力強いし、
「何、ぼーっとしてんのよ! 車に轢かれるよ?」
加恋だった。部活帰りなのか髪が汗ばんで散らかっている。
制汗シートで拭いたせいか鼻にツンとした匂いがしている。
確かにぼーっとしてたのか、道路の真ん中を歩いていた。加恋が声をかけなかったら轢かれていただろう。
「なんだ、加恋かよ……」
「なんだって何よ、大地がそんな調子なんて珍しいわね」
「今日一日でいろんなことがありすぎて疲れたんだよ」
もはや先生から一種の脅迫まがいを受けるとは誰も思わなかっただろう。
「アンタら学校じゃいつも何か問題起こすからよ、もう少し自重しながら生活してみたら?」
僕だってそうしたいさ!っという言葉を言うのにもめんどくさいと感じ、
「ハァ……」
という溜息を一つこぼした。
「そういえば、今日美沙さんにあったけどまたゴミを見る目で見られたわ……」
「あぁ〜 美沙ねぇは加恋の事嫌いだからな〜」
美沙ねぇは子供の頃から一緒にいる加恋の事を少しだけ嫌っている。その理由としては多分僕と加恋の距離が近いのが許せないんだと思う。
「私なんかしたっけ? 昔からあんな対応だけど」
「美沙ねぇに姿、形を見せてるからじゃない?」
「それはもう対処できないわよね!? 私に透明人間になれとでもいうの!?」
「ネコ型ロボットに石ころぼうし借りてこようか?」
「もういっそのこと、その青ダヌキ、私の家に連れて来なさいよ……」
加恋が隣に並ぶ、今更気づいたのだがコイツ小さくなったか?
ーーいや、僕がでかくなったのか。小さい頃は加恋の方が背は大きかったのに今では僕の方が少しだけ大きくなっていた。
「何よ……人の顔そんなじっと見て?」
「いや? 僕も成長したなぁ〜って」
子供の頃は加恋の方が大きいことに不満を持っていたが、今はそんなことも考えなくなってしまった。
絶賛、僕も成長期だからこれから背の差は開いていくのだろう。
「成長? ……アンタが? ふふっ!アンタは子供の頃からなーんにも成長なんてしてないわよ」
ムムッ! 酷い言われようだ。言わせて貰えば、加恋の方こそ成長してないじゃないか。
「ふんっ! 加恋の方こそ成長してないじゃないか」
「私は成長してるわよ」
加恋はえっへんっと胸を突き出す。
「いや、そういう体の変化じゃなくて……加恋、ジャンケンするぞ?」
「ん? いいわよ?」
「「最初はグー! ジャンケン……ポン!」」
僕はチョキ、加恋はパーを出した。
コイツ本当に成長してないな。
「これが成長してない証だよ……」
僕はスタスタと加恋を置いて家に向かって歩いた。
やはりだ。アイツに成長のせの字もない。
「ハァッ!? ちょっと待ってよ! 大地、ジャンケンで負けたからって成長してないってどういうことよ!?」
「それは自分の胸に聞きたまえ、ワトソン君」
僕は歩みを止めず、距離を離していく。
「こら待ちなさいよ! ホームズ!」
◯
加恋を置いていち早く家に帰ってきた僕を玄関で待っていたのは……。
「ハロー! 大地君? さっきはあの幼馴染のクソ加恋と仲良くやってたじゃーん?」
雰囲気から怒り狂ってるのが分かる腕を組んだ美沙ねぇが待っていた。
いつ見てたんだこの人、帰りの道では姿は見えなかったはずなのに。
「美沙ねぇ、どこかで見てたの?」
「青ダヌキから石ころぼうしなるものを借りてな……姿を隠していたのだ」
いやお前が使うんかい。
「ハイハイ……まぁ一緒に帰ってたけど別に美沙ねぇが心配するような事はなかったよ?」
「本当か〜?」
美沙ねぇは鬼の形相をしながら僕の心の内をこれでもかというぐらいに見ようとしていた。
「二人で何かをしてたんじゃないのか?例えば……ボディタッチし合ってたとか」
「……ジャンケンしただけだよ」
「は?」
美沙ねぇはキョトンとしている。
「大地よ、悪いことは言わん。年頃の男女が一緒に帰ってる時ぐらい、もう少し大人なことをしろよ……」
美沙ねぇは僕に同情したように言っている。私の弟はここまで落ちてしまったのかと言わんばかりに。
「違うからね!? 僕も好きでジャンケンだけをしたいわけじゃないから!? 他にも女の子ともっといろんなことを……」
「……いろんなこと? 大地はどんなことをしたいのか教えてもらいたいなぁ? 場合によってはボコボコにするが……」
「アンタは僕にどうして欲しいんだよ!? 大人なことをしろっていたり、それによってはボコボコにしたり」
「大地にはもっと大人なことをして欲しいが私は悔しいので大地をボコボコにする、何もしなかった大地を叱るためにもボコボコにする」
僕はどっちにしろボコボコにされる運命なんだけど。
「僕が殴られない大人なことってなに?」
「私も鬼じゃない。 人差し指同士で触れ合うぐらいはあばらの骨三本で許してやろう」
「重すぎない!?」
E・Tの感動のシーンを再現しても骨は折られるのか。
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