第20話 交渉したい

「こちらから提示する達成目標は、イベントで一位を取るために尽力を注ぐ事。できなかった場合は……分かるよな? お前ら?」


櫻子先生はプリントをヒラヒラと僕たちに見せている。


……密告するってことか。 体育館の電灯を壊した犯人は僕たちと……。

この人先生より闇金に就職した方が良かったんじゃない?



「ふっ……俺たちには何のことか分からないな? 電灯? 何のことですか?」


透がとぼけた顔をしている。


そうだ、証拠が残ってるわけでもない! このまま黙っていれば!



「現場にはこんなモノが残ってたらしい……」


櫻子先生はポケットからキーホルダーを取り出した。


そのキーホルダーは某世紀末漫画に出てくる黒い馬に乗った人形だった。


「あっ! 私の……ラ◯ウ……」


アリーナはハッと我に帰った顔をしたが遅かった。


先生はニターと笑みをこぼした。

何でよりにもよってあんなキーホルダー持ってるんだよ! アリーナ!

あんなコアなヤツ持ってる人中々いないだろ!



「これは犯人が残したものだと思うんだがな〜 どうしたものか?」



クッ! 卑怯な人質を取るなんて!

ラ◯ウを人質に取るなんて世紀末じゃ絶対にできないのにこの先生はいとも簡単に取りやがった!


アリーナは唇を噛みながら必死に「私のモノです!」と言うことを我慢しているみたいだった。



「ちなみにな……体育館の電灯、現実的な値段で言えば大体数十万はするぞ? ソースは私だ。」


いやアンタも壊したことあるんかい。



「なっ何のことかな〜」


透の目が泳ぎ始めた。


足は震えている。値段が割と響いたらしい。



「なぁ悪い話じゃないと思うが? 一位を取れればお前らがやった事にはしない、このキーホルダーも返してやるぞ?」


「僕らがやった事にしないってそれってどうするんですか?」


「加藤のせいにする」


すまない、加藤、君の噂の一つに体育館の電灯破壊者というものが加わるだろう……。


すると歩が机に手を乗せて櫻子先生を見た。


「すみませんが割に合わないんですよね〜、ボクらはもしかしたらイベントで怪我とかリスクを負う可能性もあるかもしれない、それなのに先生はイベントで高みの見物ですか?」


これはかなりの挑発だ、言っている歩でさえ、目が泳いでるんだから。


「ほぉ〜、もっと報酬が欲しいと? そうだなぁ……千円をやろう」


先生は千円を出した。


ふふっ! 男子高校生を千円ごときで丸め込めるとは安直な考え……。



「クライアントの望み叶えてみせます!」


「お前はどんだけ金ないんだ!?」


歩は櫻子先生に膝をつき、身を捧げた。



「どうやら西野以外の三人はやってくれそうだが……」


「僕は屈しませんよ!」


自信満々に答えてみせる。 僕を従えるのは難しいぞ?



「お前は一番簡単に交渉が進むからな〜」


櫻子先生は余裕の顔を見せた。 僕には揺るぎない芯があるからブレないぞ!


「ふん! そんなことは……」


「ーー姉貴たちに言うぞ?」


「絶対に任務を遂行してみせます! この身が砕けようと!」


揺るぎない芯? なにそれ、食えんの?


「よし、お前たちよく協力してくれると言ってくれた! 尽力するように! じゃあ帰っていいぞ!」


僕たちは肩を落として生徒指導室を出て行った。


こうして僕たちはイベントを絶対に勝ちに行くことになってしまった。

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