第19話 先生
放課後……。
僕らは櫻子先生の元に向かうべく、廊下を歩いていた。
「大地、今日は散々な目にあったな……」
「本当だよ……透達もどっか行きやがって」
今日は一日中、リアル逃走中をしていた。
授業が終わればすぐに狂戦士達に追い回され、授業が始まる時間になるとすぐに戻ってくる、授業が終われば、すぐに逃げるその繰り返しだった。
後半になってやっと梅澤さんがみんなを注意してくれたおかげでなんとか終わったが暴徒に襲われたせいで制服があちらこちら汚れたり、ボロボロになっている。
「いやぁ〜用事があってさ、」
「それって何?」
「いや、答えを考えてたんだよ……。俺いつになったら空飛べるかなって」
「それ、一生出ない答えだと思うよ!?」
こんな悩みの為にコイツは僕を見捨ててたの!?
「ボクもさ、用事があって」
「そうか……それは良かったな」
「あれ!? ボクのは聞かないんだ!?」
コイツに構っていても時間の無駄だ。どうせ関係ないことなんだから。
「アンタら真面目に学校生活送ろうとか思わないわけ?」
アリーナは呆れた顔しながら僕たちを見る。
「そういえば、アリーナも助けてくれなかったよね?」
「そりゃそうでしょ、あんな凶暴な獣達、ひ弱な私が止まられるはずないし」
「いやご自慢の悪口でアイツらを止めてくれれば良かったのに……」
「アンタバカねぇ……。私が本気の悪口でアイツら止めようとしたら……」
まぁアリーナに悪口言われてもみんなご褒美に感じてしまうんだろう。無茶な頼みだった。
「……死人、又は行方不明者出るわよ?」
「なんなの君の悪口!? 凶器又はリーサルウェポンなの!?」
とりあえずこれからクラスから行方不明者が続出しないことを願うばかりだ。
何だかんだ言って櫻子先生の待つ職員室に着いた。
「失礼しま……うわっと!!」
「ん? やっと来たか、お前らここじゃ人が多いから隣の部屋にするぞ」
透が職員室の扉を開けようとした瞬間、急に扉の方が開き、櫻子先生が出てきた。
先生に誘導される形で僕たちは隣の部屋の生徒指導室に入って、順番に座り始めた。
「帰る時間にすまないな、さっさと終わらせるつもりだから」
不思議と櫻子先生からは朝のような怖い雰囲気はなく、落ち着いた優しい雰囲気が出ていた。
何か怒られるかと思ってある程度身構えていたがその必要はないみたいだ。
「それで先生……俺たちに用って?」
透が話をスタートさせた。
「あぁ……お前たち、今日説明したように明日、林間学校の部屋のランクを決めるイベントがあるって説明したような?」
「そうですね」
「先生は絶対に上位狙えよっとか言ってましたね」
あの時の先生の威圧はとんでもなかったからよく覚えている。
「あぁだから、お前たちには絶対に上位の順位を狙ってほしいと改めてお願いに来た……。
お前たちはバカな事ばかりしてるがやる時はやるやつだと思ってこうやって声をかけたんだ」
先生は珍しく頭を下げた。
顔を上げると、先生は真面目な顔で頼んでくる。
その目はまっすぐと僕らを見ている。僕らを信頼してここまで頼んでいるんだろう。
しかし残念ながら他の三人たちのモチベは……
「いやぁ〜 でもあんまし俺テンション上がんないんですよね〜 運動するの嫌だし……」
「ボクもワザワザ頑張るに至らないかな〜」
「私も林間学校自体あんま興味ないしな〜」
三人とも先生の思いを踏みにじるほどの意見を軽々しく話す。
ーースっと空気が変わった!
鳥肌がした。
あれっ? 誰かエアコンでもつけた?
櫻子先生を見ると、誰もがビックリするほど怖いくらいの笑顔を僕らに見せていた。
「そうか! お前らの気持ちは分かった! ……それよりついこの間、職員室の先生たちにこんなプリントが届いたんだが、知ってるか?」
先生は僕たちの前に一枚のプリントを提示してきた。
「なになに……「体育館の電灯修理工事につい……て」……だと……」
僕らはプリントを読んでいくうちに思い出し始めた。 バレーの光景。それから逃げていく僕たち。
読んでいくと同時にみんな冷や汗をかいたり、顔が強張っている。
チラッと櫻子先生を見るとこれまた嬉しそうな顔で気付き始めた僕たちを見ていた。
「……散開!」
忍者の如く透の合図で僕たち四人は一斉に生徒指導室の出口に向かい走ったが……。
「なっ!? 扉に鍵が!?」
「ふふっ……獲物を狩るコツはね? まずは逃げる手段を無くして追い詰めるところから始まるだぞ?」
櫻子先生は鍵をフリフリと僕らに見せつけている。
獲物? この先生、生徒を獲物って言ってるけど……。
「さて! 座ろうか、お前たち! 今さっきまでのは建前だ、これからは生徒と先生としてではなく、ちゃんとした人間同士の交渉だぞ?」
僕たちは忘れていた……。
一番敵に回してはいけないのはあの化物のクラスを束ねるこの先生だった事に……。
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