第18話 世紀末

林間学校……それは校外学習の一つで学校から離れて特別な授業などをするいわゆる学校行事だ。小学校や中学校で何度か経験したがまさか高校生でもやるとは……。



「お前らがどれだけ私の話を聞いてないかがよく分かった……お前ら覚えておけよ?」


クラス全員に殺気を放つ櫻子先生は悪魔に見えた。



「……林間学校の中身に入るより大事な事を今日話す……それは、明日、明後日とイベントがあることだ!」


ドンっと櫻子先生は机を叩く。


それに少し驚き、みんなビクッとした。



「先生、あの……イベントってなんですか?」


手をそろそろと上げながら透が聞いた。



「この学校に入る時、聞かなかったか? この学校の校風で賞品があるイベントが毎月のように開催されるって」


確かにパンフレットかなんかに書いてあった気がした。



「もちろん林間学校の時もイベントが開催されると思うが、重要なのは林間学校の前のイベントだ」


「なんか賞品出るんですか?」


誰かが手を挙げて質問している。



「毎年やっているから私は分かるが……このイベントの賞品は……泊まる部屋のランクアップだ!」


「「「おぉぉぉ!」」」


「イベントで上位にいけばいくほど泊まる部屋が豪華になっていく! つまり下にいけば下にいくほど下がるわけだが」


もう一度櫻子先生は机を叩く。



「全員なんとしてもイベントで勝て! ……そして私を豪華なスイートルームに泊まらせろ!」


櫻子先生の目は本気だった。


なるほど、クラスの部屋のランクで先生たちの部屋のランクも変動するわけだ。


だからこんなにも先生は気合が入っているわけだ。



「そのイベントの内容とか分かってるんですか?」


「いや、当日にならんと分からん。だから対策のしようもない。……分かってれば金を握らせたり、脅迫したり、人質とったりできるんだが……」


後半の先生の言葉は聞かなかったことにしよう。 犯行声明みたいなものだから。


するとチャイムがなり、ホームルームが終わった。



「お前たち、明日は気合を入れて望めよ?」


櫻子先生は教室を出て行った。





「林間学校か〜なんだか高校生みたいなイベント来たね」


「そうか? 俺は別にモチベは上がらんが、どうせ運動とかさせられるし」


「ボクもちょっとねー、虫がいるし」


なんだか二人共、テンションが上がらないみたいだ。


「アリーナはどう? 林間学校楽しみじゃない感じ?」


うーんとアリーナは考える仕草をして、


「さっぱりね、あの行事の何が楽しいか分からないわ」


とこれまた辛口のコメントだった。



「アリーナの学校は楽しくなかったんだ?」


「だって、一人で山道を歩いたり、一人で飯盒炊爨したり、レクに参加する時、いつも先生が「じゃ、やろっか?」って少し寂しげな顔をしてたり、バスの席ではいつも隣が誰もいなかったり、何が楽しいの?」


「アリーナ……それいじ……」


最後まで言おうとしたところで透と歩に口を塞がれた。


そして二人は無言で首を横に振り、悲しい表情をしていた。


そうか僕はアリーナを傷つけてしまうところだった。


アリーナのエピソードは全米が涙した。




「……あっあの!」


「ところでイベントって何だろうね?」


「……皆さん!」


「とりあえず運動以外だったらなんでもいいよ」


「……聞こえますか!」


「案外、テストとかじゃないの?」


「……あのぉぉ……」


「頭を使うのも僕にはきついなぁ……」


「す、み、ま、せ、ん!!」


「「「おぉ!?」」」



小さな声が何か聞こえる気がするなぁとは思っていたが、誰かが喋っている声だったらしい。


声のする方を見るとこじんまりとした少女がいた。



「なんだ……梅澤さんか」


「どうしたの?」


梅澤彩音……背はこのクラスで一番小さく、みんなのマスコットキャラクター的存在だ。



「……さっきから話しかけてもみんな聞いてくれなかったので……」


「ご、ごめん聞こえなかったから」


「が、がーん……酷いです……」


梅澤さんが目から大粒の涙を出した。



「あー、大地が泣かせた!」


歩が割と大きめな声を出し、その声にみんな振り返った。



「おい、西野! なに、彩音ちゃん泣かせてんだ?コラ!?」


「学校のグラウンドに埋めるぞ? タコが!?」


「もしくはバットで乱れ打ちにするぞ? オラ!?」


「もしくは俺の嫁になるか? ダイチ!?」


梅澤さんを泣かせたせいでクラスの男子は暴徒化して、今にも僕を殺しそうだ。


「いやいや待って、泣かせるつもりじゃなかったんだ! ……あと誰だよ、騒動に紛れて僕に告白してきたやつ!?」


みんなの荒れに荒れてる中、僕の貞操を狙ってる奴がいるみたいだ。気をつけないと。



「……大丈夫です、大丈夫です、西野くんだって生きてるのが苦痛なぐらいの人生を歩んでいるのにこうして頑張って生きてるんです! 私も頑張れます!」


梅澤さんは泣き止んだ。


あとさらっと僕に暴言吐いたよねこの子……。



「ところで梅澤さん、僕らになにか用があったんじゃないの?」


「そうでした!」


梅澤さんはポンと手を叩き、何か思い出したようだ。


「実はさっき、櫻子先生から連絡を受けたんです! 西野くんたち三人と、アリーナちゃんに放課後、私のところに来いって……」


「あの人からの連絡? 怖いんだが?」


「でも行かないと殺されるよね?」


「行くしかないでしょ……ハァ……」


僕らは溜息をついた。



「じゃあ、私はちゃんと言ったので!」


梅澤さんはトコトコと僕たちの元から離れていった。

小動物みたいで可愛いなぁ梅澤さん……。


梅澤さんの姿を見ていると隣からトントンと肩を叩かれた。


「ん?」


「西野〜野球しようぜ〜!」


とクラスの男子たちが金属バットを持ちながら恐ろしいほど綺麗な笑顔でこちらを見ていた。


「透、歩、助け……」


気づいた時には二人共いなくなっていた。



「アリーナ! アリーナは野球とか嫌いだよね!?」


後ろで存在を消していた、アリーナに僕は聞く。


「ん? いや私、野球好きよ? メ◯ャーとか、ダ◯ヤの◯ースとか」


ガシッと男子たちに肩を掴まれた。


恐る恐る見ると、



「西野くん無駄な抵抗はよそうぜぇぇぇ?」


「彩音ちゃん泣かせたこと後悔させてやるぜぇぇ!」


「GO TO HELL! GO TO HELL!」


「早くテメェの頭、ホームランさせてぇ!」


「ダイチの大事なところに俺のバットを入れてやるぜ?」


完全に奴らは暴徒化していた。


梅澤さんの涙はこのクラスの奴らを世紀末状態にさせるなんて!


「絶対に捕まるもんか! ……あと絶対、誰か別の理由で僕を狙ってるだろぉぉぉ!」


僕はすぐさま、教室の扉をこじ開け、暴徒化したクラスメイトたちから逃げた!


「ヤツが逃げたぞ!」


「探せ!とっ捕まえろ!」


「骨も残すなよぉ〜?」


暴徒化した狂戦士たちは鈍器を持って教室から飛び出していった。




「ハァ……なんであんなヤツに恋しちゃったんだろう?」


アリーナは溜息をつきながら、窓の外を見ていた。

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