第16話 その先の先
次の日の朝、
「おはよ〜」
「おっす〜、なんだ大地、お前眠そうだな?」
透は僕の顔を見て指を指した。
「いや〜実は昨日、家に帰ったら美沙ねぇとずっとゲームしてて全然寝させてもらえなかったんだよ……ほあぁ〜」
まぶたが鉛のように重い。布団があれば今すぐ寝ることができるだろう。
「あっアリーナちゃん、おはよう!」
「……おはよう!」
教室にアリーナが入ってきた。昨日、なんだか機嫌が悪くなってしまってそのまま帰ってしまったんだ。
後で謝らなくては……。
「あれ? アリーナなんだか日本語上手くなったね!昨日不慣れな感じだったのに!」
ある男子生徒がアリーナの様子を見て不思議に思ったのだろう。
確かに昨日とはまるで違う感じだ。
アリーナどうするんだろう?
「みんなともっと話しをしたくて昨日の夜、とても勉強したんだ!」
いや、無理があるでしょ!? あんな不慣れ感じだったのに一夜漬けでそんな流暢に喋れるわけないでしょ!
みんなそんなので騙されるわけ……。
「なるほど! アリーナすごい勉強したんだね!」
「アリーナならそれぐらい簡単だよね!」
いけるんだ!? 騙されちゃうんだ!? 日本語の成長速度、ポッポから急にピジョットになるぐらいの急成長のレベルだけど!?
「なんか参考にした教科書とかあるの?」
「ーーきょっ教科書ね〜……あっあれよジ◯ジ◯の第3部で……」
アリーナが目を虚ろにしながらみんなと話している。
もうあの団体には触れないでおこう、クラスのみんなは頭がどうかしてたみたいだ。
「アリーナ、素のままでいくことにしたんだな」
透はアリーナのあの様子を見て呟いた。
「うん、そうみたい。でもあの方が自分を偽ってない感じがするから僕はいいと思うけどな!」
「まぁ……あのままの方が楽だと思うしね〜あっ噂をすれば来たよ?」
隣の席で睡眠不足のせいか寝かけている歩が急に指を指してアリーナがこちらに来ていることを僕たちに気づかせた。
「……おはよう」
「おっおはよう……」
アリーナは少し怪訝そうな顔している。
昨日の事まだ何か怒ってるんだろうか。
「あ……あのさアリーナ昨日……」
「大地!」
「はっはい!」
「これからアンタにはみんなよりもとんでもない悪口言っていくから覚悟してなさいね!」
「えぇぇぇ!? 何その不快な宣言!? 僕何したの!?」
そう言ったアリーナの表情は昨日のようにみんなに見せていた作られた笑顔じゃなかった。
その笑顔を見せられた人も嬉しくさせてしまうほどの本当の微笑みだとなぜか感じてしまった。
悪口を言ってやると宣言された後なのにである。
「じゃ!」
アリーナはそう言うと、トイレなのか教室を出て行った。
「透、歩! 僕、昨日何して怒らせたんだろう!?」
僕はすぐに二人の方を見た。
「呼吸したからじゃないか?」
「いやアリーナの視界に入ったからでしょ?」
「僕は人間の生活を営むことができないの?」
コイツらに聞いたのは間違いだった。後で直接アリーナに聞かないと!
「……大地はアリーナの悪口を言うためにその人の事を理解してる姿勢が好き……」
「……だからって大地に悪口どんどん言ってくってすごい発想だけど……」
「……悪口を言えば、大地がもっと好きになってくれると勘違いしてるんじゃないか……?」
「……アドバイスする?」
「……まぁアリーナらしくていいんじゃないか?」
「……間違いないね……」
僕が必死で何が原因か考えてる中、歩と透は何かコソコソ話してた。コイツら人が困ってるのに……。
◯
職員室……
「櫻子先生そろそろ林間学校が近いですね!」
隣の羽島先生がカレンダーを見てウキウキしている。
「ってことは例のヤツが始まるわけですね」
「今回はどのクラスなんでしょう?」
最近、一年生のクラスの先生の空気が張り詰めているのも例のヤツのせいだろう……。そのせいで他の先生に聞きたいことも簡単には聞けない状態になっている。
隣の羽島先生ぐらいだろう、危機感もなしに学校生活を送っている人は。
「羽島先生のクラスはどんな感じですか?」
「いや〜なんとも言えませんね、みんなで頑張ろうって言う風にしたいんですけど〜 櫻子先生のクラスはどんな感じなんですか?」
「……まぁやる気にさせれば動くヤツらがほとんどなのでそいつらをどうやる気にさせるかにかかってますね……」
そして私は今日渡された『体育館の電灯修理について』という書類を見て、ほくそ笑んだ……。
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