第15話 扉の先に


「うわぁぁぁん! よりにもよってコイツらにバレた〜!」


 アリーナは急に泣き出し、廊下に座り込んだ。



「アリーナ……君……日本語上手だったんだね……」


「いや、そこ!? もっと他に思うところあるでしょ!?」


「うーん……」


 僕は歩と透を見る。


 二人は顔を合わせた。



「貧乳じゃない?」


「……いやパンツだろ?」


「顔じゃないかな?」


「アンタ達、一列に綺麗に並んで? 順番に綺麗に殴ってあげるから……」


 アリーナの目が殺気を放っていた。


 おっと……。これ以上は言葉を慎重に選ばないといけないみたいだ。



「……もしかして、口の悪さのことか?」


 透が腕を組みながら思いついたようにアリーナに問いかける。


「……そうよ、そのことに決まってるでしょ……」


「なんだそんなことだったのか……」


「なんか意外に普通の悩みだったね……」


「普通の悩みじゃないわよ! この口の悪さ、私は迷惑してるのよ!」


 アリーナは座り込みながら、喋り始めた。



「日本に来たのは小学校の時でその時から日本語は少しずつ覚え始めたの。」


 小学校からってことは日本に割と長い間いるってことか。


「参考にしたのが日本の漫画とかアニメで、特に悪役が言うセリフ……暴言っていうの? にハマっちゃって一時期ずっと汚い言葉とか友達とかにちょっとした悪口を言ってたわ」


 確かにアニメの悪役のセリフってたまに憧れたことがある。

『人がゴミのようだ!』とかかっこよくない? 僕だけ?


「でも年をとればとるほど、そう言った言葉がみんなの気持ちとかを踏みにじったり、最低な事って分かり始めて隠してたんだけど、でもたまにムカついたことがあったりした時、不意に出ちゃったりして、今まで散々な目に……」


 アリーナは体操座りをして、組んでいる腕の中に顔を隠す。



「口が悪いとかが原因でいじめとか無視されたとかか?」


 透がアリーナの心の中を読むようにマトを当てていく。


 アリーナは顔を隠しながら頷いた。



「たしかにこの時期に転校生って珍しいもんね」


 入学式から一、二ヶ月経って転校してくるんだ、たしかに少しおかしかった。



「……そして、日本語が不慣れなハーフキャラを演じて新しい高校生活でエンジョイしようとしてたのか?」


 またもやアリーナは頷く。



「……笑えばいいわ、どうせアンタ達、クラスのみんなに言いふらして私をバカにするんでしょ……」


 アリーナは顔を上げて僕らと顔を合わせず横を見る。ムスッとした顔をして遠くを見る。



「えっと……僕たち笑ったり、言いふらしたりはしないけど……? だよね、二人共?」


 透と歩の二人は頷く。



「なんでよ! ハーフで日本語不慣れな感じを出しといてこれだけ喋れる。さらに口が悪いのよ? 『アイツ、必死にハーフキャラ出してたんだぜ?』とか陰口言って、ただの恥ずかしい奴にして笑い者にすればいいじゃない!」


「言いふらしてお前を笑い者にしたところで何が楽しいんだ?」


「え?」


 アリーナは面食らった顔をした。



「そんな虫唾が走ることしてボクら全然面白くないけど……」


「……だって私、自分の評価を上げようとみんなを騙してたのよ?」


「僕は別に騙されたとは感じてないけど? むしろそれだけ流調に日本語が話せるって知れて良かったかな! なんか壁が無くなった感じで……」


外人と喋る感じで少し見えない壁を感じてたけど、今はアリーナとの間に壁が無いように感じている。



「アンタ達、お人好し過ぎるのよ……それでもねぇ! この口の悪さで絶対にまた私の周りからみんな離れていくのよ!」


 アリーナは強い口調だが少し涙目で悲しそうな表情をしていた。



「あのさ……アリーナは陰口を言ってるわけじゃないんだよね?」


「……そうよ!」


「それじゃあ、良かった!」


 アリーナは僕の言葉を聞いた瞬間ギロッと睨んだ。


「何が良いのよ!」


 ビッビビるな僕!



「えっえっとさ……僕は陰口はともかく、直接、人の前で悪口言える人ってすごい人だって思ってるんだ!」


 僕が口を開くたび、どんどんアリーナの表情は怖くなってる気がする。ひぃぃっ!


「確かに口が悪い人とか悪口を言う人ってダメな事なのは分かるよ。

……でもこれは僕の持論になっちゃうけど、その人の前で直接、悪口を言える人ってすごく信頼できる人と思うし、一番人間らしいなって思うんだ。」


「……アンタの持論、どういうことよ?」


 コイツ何言ってんの?と言わんばかりにアリーナは僕の顔を見る。


「普通、人ってさ、人に言いたくないこととか悪口ってその人に直接言わず、その人のいないところで間接的に言うと思うんだ」


 僕は少し聞こえやすいようにアリーナの近くによった。


「でもさアリーナはそれを直接言える人。

そんな人って余程の無神経とかじゃなかったら、信用できる人って僕は思うんだよね。

逆に小さな悪口も頑なに言わない人は何考えてるか分からないし、信用できないし……」


 小さな悪口も言わない人って僕の前で言わないだけでどこか僕の知らない場所で言ってるかもしれないって思っちゃうから怖いんだよなぁ。



「……ポジティブに考えすぎよ……ハァ……」


 アリーナは溜息を口から零した。



「僕の悪口も見てたでしょ? このくらいポジティブじゃないとやってけないから!」


 なんの罪もない子にいきなり爆弾みたいな悪口を言う僕なんてクラスもとい学校でも評判が地に落ちている。



「……ふっ……間違いないわね」



 アリーナは気分を害していたが少し笑って穏やかになっている。



 そうだ! 少し感じてたことを今のうちに言っとくか。




「……アリーナの口の悪さって思ったんだけどさ、ただの関係ない暴言を除いたら、ちゃんとみんなの事見てないと言えない悪口を言ってるなぁ……って感じたんだ。

悪口を考えるためなのかは分からないけどさ、一生懸命にみんなを見て、理解しようとする姿、僕は好きだけどな?」


 その人の悪口を言えるってのはその人のことを少しでも理解してないと言えないことだと僕は思っている。



「……あっアンタそんな簡単に好きなんて言葉使うウニャウニャ……」



 アリーナは少し顔を赤らめて小声で何かを言っている。


「ごめん、なんて言ったの?」


 すると急にアリーナは顔を隠した。


「? アリーナ?」


「……私置いて、早く帰りなさいよ!」


「えぇ!? どうしたの急に、なんか僕悪いことした?」


 すると急に透達に腕を掴まれて、引っ張られた。拉致される勢いで引っ張られるため、立ち上がることも出来ずただただ運ばれている。



「さあーって! 鈍感ボーイと一緒に俺たちは帰りますか!」


「アイアイサー!」


 コイツら何してるんだよ、早くアリーナに謝らないと! 僕、何か変な事言った!?


「ちょっと!?話終わってないんだけど!?」


 僕は二人に引っ張られてその場を後にした。







「直接、悪口言える人は一番人間らしいか、そんな考えしたことなかったなぁ……」


 私は立ち上がった。



「西野大地か……」


 大地の顔を思い出すと急に顔が赤くなった。


 なんだか不思議とアイツを考えると胸が痛い。



「え?ちょっと!? あり得ない! なんで顔赤くなってんのよ、あんな奴……ないない……絶対にないんだから!」

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