第8話 逆転裁判

 アリーナが僕の後ろの席に座る。



「エッエト……ヨロシクオナガイシマス!」


 アリーナは緊張したように僕に挨拶をする。



「うん、ヨロシクね、アリーナって呼んだらいい?」


「ハイ! ……アナタノナマエハ……?」


「西野大地だよ! 大地って呼んでくれていいよ!」


 おっ今日の僕なんかいい感じじゃないか? 初対面の子と上手く話せてる気がする。



「先生! 西野くんがアリーナさんを卑猥な目で見ています!」


 歩がクラスに聞こえるように大きな声で言っている。



「ちょっと! 冤罪です! 僕はそんな目で見てません!」


 櫻子先生は少し考えていると、



「確かに被告はたまに私の事もそんな目で見ているからな……」


「ちょっと待って! 僕には味方いないの!? だれか弁護士を呼んでください!」


 まぁ櫻子先生をそうゆう目で見るのはしょうがなくない?男だもの……。


「まぁ西野がそんな目で見ていても、何もできんだろ、そこんところは私も分かってるぞ」


 櫻子先生がフォローをしてくれた。


 ……フォローになってない気がするが……。



「アノ……ダイチンデスカ?」


「あぁ……惜しいね、ダイチだよ?」


 アリーナは不慣れなのか少しだけ僕の名前を間違えていた。


 しかしそんなところも可愛いと思ってしまう。



「……ダイチン?」


「ダイチ!」


「……ダイチン?」


「ダイチン!」



「先生! 大地がアリーナに淫語を強要しています!」


「異議あり! 完全な無罪とは言いませんが、減刑を願います!」


「青野検事、西野被告はどんな淫語を?」


 櫻子先生は絶賛裁判長になりきっている。



「アリーナに対して、ダイチン、ダイチンと大きな男のブツを連想させる言葉を……」



「「うわぁ……」」


 まずい、クラスの雰囲気が僕が悪人という一色になっている、なんとかしなければ!


 僕はすぐに手を上げ、



「裁判長! 被告は最初からアリーナにダイチンなどと教えてはいませんでした! その証拠に現在もアリーナはダイチンと間違ったまま覚えて、それにつられて被告は言ってしまったのです!」


 こうすれば僕に向けられた疑いが晴れる。



「アリーナさん、この変態の名前は?」


 歩が僕を指差して聞いた。


 今さっき言った変態というのは後でじっくり問い詰めてやろう。



「ニシノ……ダイチサン! デス!」



「いやちょっと! なんで覚えてるの!?」


「おぉぉぉ!」


「アリーナちゃん、もうクラスの人の名前覚えたのかよ、すごい!」


「日本語不慣れなのにすごいや!」


 アリーナの印象が高くなる一方、僕への蔑んだ目がさらに多くなっていった。



「……被告、何か言うことは?」


「……弁護側からは以上です……シクシク」



「それじゃあ変態にかかった時間を取り戻すべく、来月行われる林間学校について説明するぞ!」








「いやぁ災難だったなぁ〜、大地?」


「……話しかけるな、裏切り者」


 朝のHRが終わり、透が話しかけてきた。



「まさかクラスに晒されるとはね〜」


「……お前に関しては今日会ってから良いと思った感情はないよ」


 隣の席の歩が顔を覗かせる。



「まぁまぁ友達からの軽い冗談のつもりだったんだがな〜」


「お前らのどっちか殺したら俺の目、写◯眼になるかな?」


「お前いつからうちは一族になったの?」


 コイツら馴れ馴れしく喋りかけやがっていつ殺してやろうか。


「お前にはすまないと思って……」


 昼休憩か? いや放課後の方がだれもいないし……。

 殺すタイミングはしっかりと見極めないと……。



「アリーナと学校見学するように誘っておいた」


「お前らは最高の親友だ! これからも一緒にいよう!」


 僕はこんな最高な友達を手放すところだったなんて、どうかしてた!



「放課後にするから帰ったりするなよ〜」


「分かってるよ〜ふんふん! おっと!」



 僕は廊下を勢いよく出て女の子とぶつかってしまった。



 女の子は尻餅をつき、その反動でパンツが僕の前にオープンしてしまった。


「なんだよ、その真っ白な下着! 高校生にもなって中学生みたいなもの履くな! もっと色気あるもの履けよ! あっそっか、君自体に色気がないからそれに合わせて色気のないもの履いてんのか、僕が盲点だったよごめん、ごめん!」


 いつものように恥ずかしさから悪口を吐いてしまったがそんなことよりも、アリーナと学校見学が出来ることに思いが傾いてたため僕はうろたえず立ち上がり、



「カッコいい!! もっともっと悪口言って!」


 そんなこと関係なしに悪口によって顔を赤くしながら興奮している女の子を無視して、僕はスキップしながら次の授業の教室に向かっていった。



「あのさぁ〜歩……」


「なに? 透?」


「アイツの悪口、最近聞いてなかったからあれだけどもしかして俺たち不味いことした?」


「ハーフに照れて、どんな悪口を言うか見物ですな……」


「おまえ、ほんと性格悪いな」



 歩がクククと笑っている姿は僕には見えなかった。

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