第3話 冒険の書

「はぁ〜」


 僕は大きなため息をついた。



「どした? そんな大きなため息ついて?」


  透は前の席に座って後ろを振り向いた。



「ん? あぁちょっと朝からとんでもない人現れてさ」


「なんだ? 裸で歩いている女の人でもいたか?」


「その方がまだいい方だよ……」


「お前、頭どっか打ったのか?」


「お前さ、信じれる? 登校中、僕に悪口言われて興奮して感じる女がいたって言ったら」


「ーー相当、重症見たいだな……」


  透は僕を同情した目で見ていた。



「そう思うよね……」


「大地、今からでも遅くない、良い医者紹介してやる」


「別に病気になったわけじゃないんだけどね」


「どうしたの?」


 隣の席に座ろうとしていた歩が僕たちの会話に入ってきた。



「聞いてくれ、歩! どうやら大地が全裸の女性が自分の悪口で感じる幻覚を見始めたようだ!」


「……情報量多すぎて反応しづらいんだけど、重症みたいだね」


 透がまぁまぁ大きい声で言ったせいでクラスのみんなが振り向いた。



「いや! 全裸は言ってない! これじゃあただの変態じゃないか!」


「「全裸はってことは他のところは本当なんだ」」


 透と歩はシンクロしたように声を揃えて言った。



「くっ! ハメられた!」


 クラスのみんなが蔑んだ目で見ている。



「……まぁ大地が変態なのは知ってるけど……何があったの?」


 歩が隣の席に座った。


「実はさーー」


 僕は朝に起きたことを説明し始めた。







「そんなことがあったのか……」


「お前、すごい経験してきたんだな〜」


「大変だったんだよ……」


 思い出すと今でも肩が重くなる。



「多分さ、そいつ度を超えたマゾヒストだったんじゃないの?」


「それしかないでしょ?」


「そうだったのかな〜?」


 あの子最初は普通な感じだったし、なんか急に変わった感じだったんだけどな〜。



「良い経験できたと思って喜べよ」


「確かになかなか出来ないよね〜」


 よく考えたらあぁやって馬乗りになったのも初めてだった。



「歩さん! パン買ってきました!」


 すると突然隣のクラスの男子生徒が歩にパンを渡した。



「林くん! いつもありがとね!」


 というと歩は林くんの手を握ってかわいさMAXの笑顔でお礼を言った。


「いっいえ! そっそれじゃ俺はこれで!」


 林くんはキョドりながら自分のクラスに戻っていった。



「どんどんお前のファン増えてるよな」


「噂によれば100人ぐらいに増えてるらしいよ」


「マジか、なんなの歩、お前国でも作るの?」



 真下ましたあゆむ、側から見たら完全に美少女に見えるが実際は男だ。


 僕も最初は間違えて林くんみたいにきょどりながら喋っていたが今や歩の心の内の毒さなどを知ったりしてしまったので慣れている。


 目をクリクリとしてて艶のある金髪、男じゃなかったら僕も惚れていただろう。



「国は無理かな〜、まぁ人が集まったら集まったらで船でひとつなぎの財宝でも探してくるよ」


「お前はどこのゴム人間だ」



「実際、お前のこと男って知らずに優しくしてくる人も何人かいるだろ? 罪悪感ないのかよ?」


 歩はクスッと笑うと、


「罪悪感? ナニソレ? 食えんの?」


 と毒を吐き始めた。



「お前の正体知ったらファンの奴ら絶命するだろうな〜」


「それは大丈夫だよ〜 絶対見せないし」


 ふふ! と歩は自信満々に言った。



「あ、大地教室にいたんだ!」


 加恋が僕たちの教室に入ってきた。


 あれなんか僕やらかしたっけ?



「なに、お前またなんかやらかしたの?」


 僕は首を振って否定した。


 すると加恋は僕たちの席に近づいてきた。



「大地、あんた……」


「カレンがあらわれた!」


 歩は急に某ゲームのモンスターに遭遇した時のセリフを言った。


「大地どうする? 今ならたたかう、まほう、さくせん、にげるが選択できるが?」


「ふっ……もちろんにげる一択でしょ」


 選択の余地なんてない、これが最善の手だ!



「ちょっと……私をド◯クエのエンカウントみたいな扱いするな」


「大地どうやら魔王ボインは簡単に逃がさせてはくれないみたいだぞ?」


「ザキで殺すしかないみたいだね」


「いきなり殺しにいくの!? 私に一片の優しさはないわけ!?」


 でもザキ失敗しやすいんだよなぁ……。ザラキーマぐらいの方がベストかな。




「なんだよ、加恋僕なんもしてないぞ!」


「私が来るときはアンタがなんかやった時だけじゃないから!」


 加恋はツッコミすぎて息が荒れている。



「アンタ、家に弁当忘れていったから届けにきたのよ! アンタの母さんに頼まれて……」


「なんだ、そういうことだったのか、先に言ってくれよ〜」


 無駄に体力を使った気がする。



「アンタ達が勝手にボケてただけでしょ!」


「じゃ、私行くから……」


 加恋は疲れた様子で教室を出て行こうとした。



「ありがとうな加恋! 昼飯食いすぎて太るなよ!」


「今からアンタにラリホーかけて眠らせた後、ボコボコにしてやろうか?」


「ーーごめんなさい、調子乗りすぎました」



 加恋は出ていった。

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