第4話 ミサイルをぶっ壊せ!
「あの!」
ミナギが俺とエンテンジさんの前に立った。
「私も……連れて行ってください!」
ミナギが頭を下げるのはこれで何度目だろうか。ふとそんなどうでもいい事を考えた。
「……ミナギさんまで付いてくる必要はないでしょう?」
エンテンジさんは困惑している。
「お二人だけ命を懸けるなんて納得出来ないんです。これがエゴなのも分かってます! だけど最後まで近くで見届けたいんです!」
頭を上げて真っ直ぐエンテンジさんを見つめるミナギ。俺はエンテンジさんに言った。
「俺はエンテンジさんの背中に張り付いてますから、ミナギの事抱えて行ってやって下さい」
「カズトお前まで……あーもう! 分かったよ! こうなりゃどうにでもなれだ! ただこれだけは言っておく! 死ぬ覚悟だけはしとけよ!」
「「はい!」」
エンテンジさんが各レジスタンスへの通信を終える。
「どいつもこいつも話半分にしか聞きやがらなかった……死んでも知らないからな……」
「ま、そいつらが死んでたら先に死んでるのは俺らっすけどね」
エンテンジさんに小突かれた。
「お前が全部ぶっ壊すんだろ?」
まるでそれが当たり前のように笑ってみせるエンテンジさん。この期待に答えられなくて何が
「そろそろ出発しないと、ミサイルの発射時刻が近づいてます……」
どこか後ろめたそうに言うミナギ。
「ミナギもさ、自分の命を懸けたんだからもっと胸張っていいと思うぜ?」
「え、そ、そうでしょうか」
エッヘンと小さく胸を張るミナギ。その姿に思わず吹き出してしまった。
「ちょっと! なんで笑うんですか!」
「いやなんか背伸びした子供みたいだなって……はははっ」
「カズトさんだって私あんまり歳変わらないように見えるんですけど!」
そこにエンテンジさんが割って入る。
「痴話喧嘩の途中悪いがもう行くぞ。時間がいよいよだ」
「わわっ」
「んじゃ頼みますよエンテンジさん」
エンテンジさんはミナギをお姫様抱っこのように抱えて、俺は背中にというか肩に手を回して張り付いた。浮かび上がる。
宙に浮きながら直立からうつ伏せへと体の向きを変えるエンテンジさん。それに合わせて俺はエンテンジさんに乗るように体勢を変える。
「行くぞ!」
エンテンジさんの浮遊はそこそこの速度も出る。さらに今は上昇中だ。なかなかにスリルある体験だ。
「これがリターナーの力……」
「この力のおかげ生き残ったともいえるけど、そもそもオーバーリターンに巻き込まれてなかったらもっと普通に生きていたんだろうけどね」
「あ、あのごめんなさい」
「いやいいよ、それに俺は意外にこの状況を楽しんでるんだ」
「楽しむ……?」
「なんて言ったらいいのかな。俺はもっと違った道を進めたんじゃないかって十年前、オーバーリターンが起こる前は思ってた。だけど起こった後はとにかく生きなきゃ生きなきゃでそれ以外の事考えれなくなってた」
「そうだったんですか?」
背中から聞いてみる。
「ああ。でもそうだな丁度カズトを拾った辺りからかな。この異界での生活が少し楽しく感じ始めたのはさ」
「これがエンテンジさんの進みたかった道?」
「流石にこんな自殺紛いの事をしたいとは思ってないさ。でもお前みたいなヒーローにならなりたいって思ってた」
「ヒーロー? 俺が?」
「ああ、他のヤツは戦闘狂だのなんだの言うけどお前立派にレジスタンスを助けるヒーローだよ」
「そっか俺、ヒーローだったんだ」
幼い頃のおぼろげな記憶が蘇る。これはそう多分オーバーリターンが起きる前の記憶。
テレビ画面に映るヒーローと怪人。人々を苦しめる悪をやっつける正義の味方。そんなものになれていたと言われどこか嬉しくなる。
「ヒーローならミサイルなんて怖くないっすね」
「そうだぜヒーロー。みんなを助けてくれ」
「が、がんばれヒーロー!」
高所と速度の恐怖に耐えながらミナギも声援を送ってくれる。
異界の真ん中。障壁ギリギリの所でエンテンジさんは静止した。
「ミサイルが障壁に着弾するまで、あとどれくらい?」
「後、数分で来ます!」
上を見やる。何か点が近づいてくる。アレに間違いないだろう。
「来たみたいだ」
「もう後には引けないな」
点はどんどんと大きくなっていく。こちらに迫る飛翔体。
「エンテンジさん……行きます!」
「いっけぇぇぇぇぇーーーっ!!」
「着弾、今!」
ミナギの合図と共にミサイルに拳を放つ。真っ赤に輝いた拳は障壁さえものともしない。
だがミサイルに押されエンテンジさんが下に降りて行ってしまう。ミサイル弾頭部分。対障壁用の装甲部分が焼き焦がされながら障壁を突破する。
拳をさらに天へと突きあげる。ミサイルに食い込むように捻り込む。
対障壁用の装甲がパージされる。ここからが本番だ。
俺は拳を開いた。
ミサイルの弾頭を掴む。握りつぶす。
すると手の隙間から、極光とも呼ぶべき光が漏れ出る。それを抑え込む。ミサイルの噴射部分が迫る。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
全て真っ赤な輝きで跳ね除けた。だがまだ破壊の光を抑えきる事は出来ていない。
「カズトさん!」
「おい危ねぇ!」
何を思ったのかミナギがエンテンジさんの背中に回りこちらに手を伸ばしてきた。そして俺も無我夢中でもう片方の手でミナギの手を握った。
その時だった。
赤い光は極光を抑え込むどころか塗り替えてみせた!
そして赤い光は虹の七色へと変わりだす。
「この光は……どういう事だ……」
「そうかミナギ、お前もリターナーになってたんだな」
恐らくは触れたリターナーの力を強化する異能。
「気付いたのは今さっきなんですけどね……間に合ってよかった」
拳の中、極光は弱まり、そして消えた。
東京異界のレジスタンス 亜未田久志 @abky-6102
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