第2話 レジスタンス
テントの集合体みたいな場所だといつも思う。実際テントの集合体と説明しても嘘にはならないだろう。少女――ミナギを連れて帰ってきたレジスタンス本部の外観を見て改めてそう思った。
「ここがレジスタンス本部だ」
「ここが・・・・・・あのそれで……」
「分かってるリーダーを呼んでくるから待っててくれ」
ミナギから聞いた外界から来たという話はとんでもない事だ。一刻も早く皆に伝えなくては。本部の中心、会議室と呼ばれる天幕の下にリーダーは居た。
「エンテンジさんっ」
ガタイの良い迷彩柄のジャケットを着た男に話しかける。
「作戦行動中はリーダーと呼べとあれほど……ってカズトじゃないか随分早かったな。いつもより道してくるお前が・・・・・・これは明日は雪でも降るかな」
「いえそれより要救護者がっ」
「それなら救護班に言えばいいだろう」
「違うんです。ソイツが異界の外から来たって」
エンテンジの動きが止まる。
「今なんて言った?」
「だから異界の外から来たって人間がっ」
「そんな馬鹿な……今どこに居る」
「入口で待たせてます」
「分かったすぐいく」
相変わらずおどおどした様子でミナギは立っていた。
「あの女の子です」
「確かに見ない顔だが……」
こちらに気付いたのか慌ててお辞儀するミナギ。
エンテンジも軽く会釈を返す。
「こうしていても埒が明かないな。おーい! 待たせて済まないレジスタンスのリーダーを務めているエンテンジだ」
「あ、ミナギです。よろしくお願いします!」
またまた深くお辞儀する。
「早速、話を聞かせてくれないか……君は本当に異界の外から?」
「はい、これがその証拠です」
さっきまでのおどおどとした雰囲気が消えた。彼女が差し出したのは。
「なんですかこのピンクの」
エンテンジはわなわなと震えている。受け取っていいのかと顔だけで確認を取る。頷くミナギ。
「これは生肉だ。異界じゃすっかりお目にかかる事が無くなった賞味期限の切れてない牛肉だぁ!!」
ギュウニクとやらを抱え万歳のポーズを取るエンテンジ。その声を聴いたのかテントのあちらこちらからギュウニク!? ギュウニクだと!? おい今ギュウニクって!? と騒がしくなっている。
「OK、君のことを全面的に信用しようミナギさん。それで君はどうやってこの異界に入った? 異界の出入りは『障壁』で閉ざされているはずだ」
障壁、異界と外界を隔てる見えない壁。触れれば黒焦げになる。
「私の父の研究成果です。障壁を突破出来るだけの各種装甲を備えたポッドに乗って来ました……だけど障壁を突破した時点で大破……完全な片道切符です」
「君のお父さん?」
「はいクサカ博士と呼ばれています。十年前、オーバーリターンが起きたその時から異界について研究を続けていました」
「なるほど……それで君が来た理由は?」
「……今、外の世界では広がり続ける異界の対処に追われています。そこで……」
言いづらそうに言葉を詰まらせるミナギ、思わず声をかける。
「どうした?」
そんな俺をそっと手で制すエンテンジさん。
「大量破壊兵器の投下が決定した……とか」
エンテンジさんが言葉を選びながらも絞り出すように言った。
俺は最初、意味が分からなかったけど字面を想像するだけでそれが真っ当なモノではないという事が理解出来た。
ミナギはエンテンジさんの言葉にうなずいた。
「どうか、どうかお願いです。大量破壊兵器の発動を阻止してください!」
また深々と頭を下げるミナギ。
「その大量なんちゃらだって障壁を超えられないんじゃ……あっ」
「大量破壊兵器にはクサカ博士の技術が使われている……そうですね」
エンテンジさんは作戦時よりもさらに顔を険しくしていた。こんな顔は見た事がない。
「どうか、どうか父の技術を人殺しの道具にしないでください! お願いします!」
頭を下げたまま叫ぶミナギ。エンテンジさんは険しい顔のまま腕を組む。俺はどうしたらいいのか分からなかった。思わず拳を握りしめる事しか出来なかった……
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