東京異界のレジスタンス

亜未田久志

第1話 一撃必殺の赤


 ガシャンガシャンと音を響かせ地面を闊歩する集団が居た。それらは機械であり、自分にとっては見慣れた光景だった。ビルの屋上から監視していたがるなら今だろう。


「十体くらいか? なら増援はいらねーな」

 

 ビルの屋上から機械の集団――『機兵』へとバイクジャケットをたなびかせながら飛び込んだ。瞬間。まるで爆撃のような土煙が吹き上がる。半数以上の機兵が欠片も残さず吹き飛んだ。残りの機兵もあまりの衝撃にエラーを引き起こしている。


「残りも……これで終いだ!」

 再び地面に一撃を見舞う。二度の爆風。残った機兵が宙を舞った。地面はクレーター状になっている。

 拳から赤い輝きが消える。胸ポケットから通信機を取り出す。


「こちらカズト。とりあえずうろついてた機兵を十体は片付けた、どーぞー」

『こちら本部、よくやったと言いたいとこだが、その数ならば増援を要請しろと何度も言っているだろう!』

「いやいや十体に増援は大げさだって、現にこうして倒してるわけだし」

『あのなぁ……もういい早く戻ってこい。しばらく任務もないから休んでろ」

「えー……暴れたりねぇぜ」

『い・い・か・ら・帰ってこい!』


 通信が切られる。相変わらずルールに縛られた人だと思う。もう少し自由に生きられないものだろうか。この東京にもう法なんてないというのに過去の社会を維持し続けようとする集団レジスタンス。成り行きで参加したがこれで良かったのだろうかとふと思う時もある。いつも相手している荒くれ者のように自由奔放に生きる道もあったのではないか。そんな風に考える時もある。


 だが仕方ない。大人しく命令に従い帰る事にした。その時だった。

 少し遠くからガシャンガシャンという機兵が走る音が聞こえて来た。

「来た来た! 今日は当たり日だぜ!」

 乗ってきたバイクに跨って音のする方向へと向かう。


 遠くに機兵の集団が見えてくる。もう動いてはいない。何かを囲んでいる。

「人でもいやがったのか? 畜生、間に合えッ!」

 拳を握りしめると赤く輝きだす。そのままバイクで機兵の集団へと突っ込む……と見せかけてギリギリでターンする。ハンドル片手に赤い拳で機兵を撫でる。すると途端に機兵はバラバラに吹き飛んだ。

「ひっ!?」

 悲鳴が聞こえた。恐らくは少女の悲鳴。

「まだ生きてたか! いいか全身地面に伏せて動くなよ! 流れ弾に当たりたくなかったらな!」


 返事は待たなかった。バイクで機兵の周り巡るコースを取る。気づいてこちらに銃を向ける機兵。しかしその機兵に向かって自分の近くに居た別の反応が遅れている機兵を、正確にはその残骸を殴り飛ばして二体無力化させた。そのままバイクに跨ったまま片手だけで機兵を屠っていく。一周して元の突っ込む直前の位置まで戻った時には機兵の姿は残っていなかった。


 赤い輝きが拳から消える。機兵が居たの囲いの中を見やるとそこには指示通りに全身を地面に伏せた少女が一人。

「おい、終わったぞ。大丈夫か?」

「えっ、えっ。あっ、はい! 大丈夫です! 今日も元気いっぱいです!?」

「あははっ、そっか元気いっぱいなら問題ないな」

 オレンジ色の作業着のような服を着た少女はおどおどした様子で。

「あの……あなたは?」

「俺か? 俺はレジスタンスのカズト、一撃必殺の赤リーサルレッドなんて呼ばれることもあるんだぜ」

 誇らしく語ってみる。少女はどこか不思議そうにしている。

一撃必殺の赤リーサルレッド……いや、それよりも今レジスタンスって!」

「ああ、ここら辺は俺ら『アダチレジスタンス』の管轄だけど……」

「お願いです! 私を匿ってください!」

 少女はまだ膝立ち状態だったのでほとんど土下座のような恰好で頭を下げた。

「おいおいどうしたんだ? そりゃアンタが戦えないリターナーだって言うんならレジスタンスで、そりゃ何か仕事はしてもらう事にはなるだろうけど、えーととにかくだ! あんた一人を迎えるぐらいは平気だぜ? だから頭を上げ――」

「違うんです、私は23区外、異界の外から来たんです!」

 衝撃の一言だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る