46.初代アグレッサー
「新しいって、葉月さん、俺達が任務で失敗したら、どこへ行くかという話ってことかよ」
「……それも致し方ないと自分は思っていますが……、どのような部署ですか」
もっとも最前線へと指名を受けた雷神最強エレメントのパイロットふたり。そのリスクを乗り越えた後は新しい部署へと考えていると告げたミセス准将の言葉に驚きを隠せない顔をしている。
そんなパイロット二名にミセス准将は、あのイラストをデスクの上へ置き、見せた。
「これ、海東司令が描いたの。『
「
「英太、貴方、私と一緒ね」
准将は同じ反応を示した弟分に『貴方と一緒か』と苦笑い。逆にクライトン少佐はインテリジェンスなのかさらっと答える。
「火の中でも生きていられるという伝説のトカゲのことですよね」
「そう――」
御園准将がやっと二人に告げる。
「二年後ぐらいに、小笠原の訓練校に『アグレッサー飛行部隊』を設立することになったの」
アグレッサーを! やっと二人のパイロットがおののいた。
「任務に成功して帰還、雷神での職務を果たした二年後、貴方達二人には、このアグレッサーに来てもらおうと考えている」
さらに二人のパイロットが衝撃を受けた顔になる。いや以上に、戸惑い困惑と言った方がいい。
「ア、アグレッサーて……いままでは、フロリダかシアトルの湾岸部隊にしてもらってたあれかよ、葉月さん?」
「本家本元にお願いしても日本に来てもらうにはスケジュール的に一年に一度か二度が精一杯。もっと国内で精度を上げたいと思っていたの。そうしたら、自前であったほうがいいでしょう」
「待ってください。雷神を辞めるということは、自分たちにはもう……」
せっかくパイロット達が羨む雷神に配属され活躍してるのに、そこを辞めろと言うのかとクライトン少佐は戸惑っている。
「その雷神を凌駕する恐れるフライトを作るってことよ。フレディ、貴方にそのフライトの飛行隊長をしてもらおうと思っている」
さらにクライトン少佐が驚愕の表情に固まった。
「は、葉月さん! ってことは、フレディが隊長になって! 雷神よりも強ええ部隊に配属してくれるってことかよ!」
「そうよ、英太。見て、この炎の中にいるトカゲを。海東司令が言っていたわ。雷神の
雷神が来ても平気な顔をしている火の生き物、飛行部隊。その意味に、鈴木少佐が武者震いを起こしたのを心優は見る。
「俺に、そこに来て欲しいっていうのかよ。葉月さん」
「そう。監督になる指揮教官ももう打診しているの。平井さんよ。貴方達の最初の雷神飛行隊長だった彼がね」
「平井さんが帰ってくるかもしれないってことかよ! しかも、す、すげえじゃん。フレディ! 飛行隊長就任だって!」
すげえ! と鈴木少佐はますます盛り上がっていたが、クライトン少佐は海東司令が描いたイラストを見つめたまま神妙だった。
「ですが……。アグレッサーとなると、もう航海任務からは外れ、広報もなしということになりますね……」
「そうね……。真っ白な飛行服の雷神は、最前線で活躍し、広報では国民に讃えられる」
『あ、そうなるのか』と鈴木少佐も気がついて、喜び勇んだ勢いを引っ込めた。
「確かに、アグレッサー部隊に所属されると目に見えなくはなる。広報という輝かしいステージもなくなる。でも、日本に所属する連合軍パイロットには悪魔のように恐れられ崇められる。雷神というエースパイロット達からも恐れられるパイロット集団になるのよ」
雷神の上になるんだということ。そこに二人の少佐は気がついたようだったが、雷神というステイタスを直ぐには捨てきれないようだった。
「海東司令がさらに言っていた。雷神が白い飛行服なら、サラマンダーの火蜥蜴部隊は濃紺の黒に近い飛行服にする。ワッペンは紺と相反するように真っ黄色の炎の中に、真っ青なサマランダー。炎の中でも平然としていられる男達にしたいそうよ」
真っ白な華々しい雷神というパイロットから、暗転、仮想敵を担う真っ黒の飛行部隊になる。
「へえ、おもしろそうだな。それ」
鈴木少佐は食指が動いたようだった。
「自分も魅力を感じます」
クライトン少佐も、相棒と共鳴したようだった。
「だったら、任務で成果をあげ帰還する。帰還後は、雷神を卒業するまでに、フレディはジャックナイフの称号を、英太は1対9のエースコンバットを制覇すれば、アグレッサーにも箔がつくわね。考えておいて」
二人が揃って頷く。
「今日からは、城戸大佐が徹底的に『仮想敵』をやってくれるそうよ。彼が小笠原に帰ってくる前に、名を伏せて岩国との訓練で指揮をしていたことは覚えているわね。パイロットの苦痛は知り尽くしているソニック先輩の手厳しさを……」
御園准将がそこで一呼吸置いた。そして、琥珀の目で冷たく彼らを見据える。
「行きなさい。出航までに、どんな状況でもアタックでも切り抜ける腕を磨いておきなさい」
「イエス、マム!」
さらに毅然とした敬礼をし、少佐二人がきりっとしたまま准将室を出て行った。
「次はスナイダーを呼んでくれる、心優」
「はい。スコーピオンのウィラード中佐ですね」
准将が溜め息をつきつつ、椅子の背もたれに身体を預ける姿。
「午後は雅臣かな……。殺すほど手厳しくして欲しいとお願いしたい……」
雅臣は『護る』と昨日告げていたが、その『護る』は訓練では『殺す』に迫って欲しいという意味。
内線受話器を手に取った心優は静かに答える。
「城戸大佐はきっとそうします。彼等を護るために、恐ろしい仮想敵をしてくれるはずです」
アグレッサーへと最終的な行き先を見つけた大佐殿の目が忘れられない。
「でも、雅臣には雷神の指揮官としてまだまだ経験してもらいたい。雷神を率いて、艦長としての経歴も積んで欲しい。アグレッサーができたら、そのアグレッサーに耐えうる雷神を指揮してもらうの。どうしてアグレッサーには勝てないのか、その必勝法をアドバイスする側としてまだ雷神にいて欲しい。逆に新人アグレッサー達に雷神だって侮れないと焦らせるようにしてほしい。彼がアグレッサーに来るのはそれからよ」
夫になる大佐殿の行く道はまだ長い。心優はそう思いながら、動き出したミセス准将の補佐に集中する。
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