第13話 はじめての

 その日の志穂はいつにもまして眩しかった。女の子のファッションには詳しくないけど、間違いなくそこらの女子とはレベルが違う……。並んで歩く僕は男女関係ない羨望の眼差しが突き刺さってくるのを感じた。

 ――前からだったかな……。

 志穂と歩くのは慣れている。けれども今まであまり意識しなかった周りの視線が今日はやけに痛い。

「壮、あとで観覧車乗ろう」

「いいけど……」

「ふふっ」

 志穂が小さく笑って僕のジャケットの袖をちょこんと掴んだ。


「ちょっと休憩しよう」

 いくつめの絶叫マシンに乗った後か、志穂が僕に言う。

「そうだな。飲み物買ってくるからそこのベンチにいて」

 ――こんな感じでいいのかな……。

 僕は慣れないデートというシチュエーションに考えをめぐらせた。

 ふたりで出かけるのなんて何年ぶりか。ガキの頃以来か――。それがデートになるとは思っていなかった。

 ふたり並んで口にするカフェオレもなんだかいつもと違う気がした。

「すみません」

 話しに夢中になっていた志穂が声のしたほうを見た。僕も振り返る。

「僕らこういう者ですが。写真ちょっといいですか?」


 志穂がメリーゴーランドの前に立つ。それをさっきの男と一緒にいたカメラマン? が写真に写している。

「ありがとうございました。載るのは再来月の――」

 どうやらファッション雑誌のマチガドスナップというものらしい。志穂はこれが初めてではないようで、名刺を受け取るとペコリとお辞儀をして僕のそばに走ってきた。

「ごめん。お待たせ」

「……志穂、これ初めてじゃないよな?」

「うん……。なんか……目立つらしくって。ごめん」

「なんか……、スゴイな」

「……ごめん」

「謝りすぎ。怒ってないし」

「ご……ごめん」

 僕はごめん星人になった志穂をからかいたくなった。が、やめておく。

 なんだかいっぱいいっぱいに見える彼女は新鮮だった。結構なんでも出来てしまう幼馴染みは、大人の世界に片足を入れて戸惑っているようにも見える。

「何回やっても慣れない……。モデルにスカウトもされてるけど……無理」

 志穂は僕の腕に縋り付くように顔を寄せた。

「でも断れないんだよね」

 らしいなあ、と思わず笑いそうになるのをこえて僕は言った。

「もう……!」

「あはは、すまん」

「そろそろ観覧車行こう。わたしあんまり遅くなれないから」


 ゆったりした速度で僕らを乗せた観覧車は回りはじめた。窓から外を覗くと暮れ始めた空とそれに照らされた街が見える。県内でも高台に建てられたテーマパークからの見晴らしは最高によかった。

「ホントはもう少し遅くに乗りたかったんだけど……」

 向かいに座った志穂が言う。

「? なんかあるの?」

「20時過ぎに観覧車に乗ってキスしたカップルは幸せになれるんだって」

「…………」

 ――キス……。

 考えたことがなかったわけではない。けれども……。

「なんかさ……、それって20時からのパレードの席とりしたい人が広めたんじゃ……」

「あっ……」

 志穂の顔が真っ赤になる。空を染める赤がさらに色を深くしていた。

 ふたりだけの空間に沈黙が漂う。

「それでも……」

 志穂の綺麗な顔が目の前にあった。

 目が合って、逸らせない。

 僕は志穂が目を閉じるのを見ながらゆっくりと目を閉じ、唇を重ねた。

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