第10話 ナミダ

 難しい顔をしてうつむいた志穂を見つめながら、僕は彼女の心中を思った。

「壮が言うんだから間違いないね」

 決心したように志穂は僕へと向き直し言った。

「志穂……」

「平気! 心配ありがと」

 志穂は笑顔で言うけど……。本当に言ってもよかったのか。もっとうまく説明出来たんじゃないか――。

 それにあの裏の顔がある、一癖も二癖もあるような先輩をどうやって志穂は諦めさせるんだ。野口が志穂に目をつけたのは昨日今日の話しではない。

「ごめん。何の力にもなれなくて……、僕にはどうしたらいいのかいい考えが浮かばない」

 志穂も考え込んでいる。何か難しいことを考えている時に左手で左耳たぶをいじる癖が出ている。

「わたし……、デートに応じたのは失敗した……」

「うん」

「うちのクラスの女子が絡んでるのよね……」

「うん」

 考えを整理するための言葉がふたりの間に降っては消える。答えは出るのか……。僕は志穂を見守る。自分の非力さに嫌気がさす。

「ね……?」

「ん?」

 志穂は大きな瞳で僕を見つめ言った。

「壮……、わたしのこと、好き?」

 ガタンッ――。

 どストレートな問いかけに僕は座っていた椅子から思わず転げ落ちた。

「い……いきなり、なんだよ……」

 顔は熱いし心臓はバクバクと脈打つ。さっき言われた小鉄の言葉が頭を過ぎる。

 ――ふたりはとっくの昔からはじまってる……。

 何が……?

 恋愛が。

「わたしは、壮のことが好き。で、壮が……もし、わたしのこと好きになってくれたら多分全ての問題は解決すると思うの」

 志穂が真面目な表情で、言葉に詰まりながら告げる。

 それは……、僕次第ということ?

 だとしたら――。

 僕は軽く咳払いをしながら椅子に座り直した。まだ顔は熱いし心臓も早い。

 やっと気付いた自分の本当の気持ちというやつを今伝える時がきている――。

「……す……きだよ……多分、昔から」

 声がうわずる。心臓が口から飛び出しそう……。顔が熱い。

 ふわりと僕の鼻先に志穂の髪がいい匂いをさせてかぶさり、首には彼女の細い腕が絡み、胸に柔らかなふくらみがあたるのを感じた。

「壮……」

 ――泣いてる?

「ごめん……。ずっと不安だったんだ。でも気持ち聞けて良かった。何も特別なことしなくていいと思う。前みたいに仲良く出来れば……」

「志穂……。なんか……すまん」

 僕はそっと志穂の背中に手を置いた。

「こんな事態にならなかったら聞けなかったよね……、気持ち。先輩に助けられたのかな……。またビッチって言われちゃうね」

「言いたい奴には言わせておけばいい。僕は違うって知ってるから」

 抱きついていた志穂がゆっくり体を離す。まだ涙ぐんでいる瞳が僕を見つめる。

「まえよりも仲良くなればいいじゃん」

 照れながら僕は言った。こくりと志穂がうなずいた。

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