第7話 手の中の小鳥
僕の家には白い小鳥がカゴに入れられ飼われていた。僕によく懐いていて、カゴから出すと僕のそばを離れない。
手を洗おうと水道の蛇口をひねる。洗う手の中に肩にいた小鳥がチョンチョンと降りてきて水浴びをはじめる。僕は終わるまで手の平で包むように待っていた。
白い羽は純白で美しく、黒い瞳はつぶらで愛らしい。
ある日、カゴから出していたのを忘れて窓を開けてしまい小鳥は逃げて行ってしまった。あんなに懐いていたのに……。
開け放たれた窓から、あっという間に小鳥の姿は見えなくなった――。
という夢を小さい頃見て泣きながら起きたことがある。そう――今朝のように。
僕が何故志穂の想いに応えられなかったのか……。
一度手に入れても、いつか逃げていってしまうかもしれない……。どんなに仲が良くても。
怖かったのだ。
――でも今はこのままになってしまうほうが怖い。
何故あの時、志穂が僕に何かを伝えようとしたのに逃げてしまったのか。関係を修復する絶好のチャンスだったのに――。
「まさか16にもなって泣きながら目が覚めるとか……」
僕はパジャマの袖口で頬をぬぐい、顔を洗うために部屋を出た。
「いってきます」
僕は玄関のドアを開け外へと出る。隣には志穂の家――。
「いってきまーす」
僕はあれから登校時間をずらして、この状況を極力避けてきた。
「あ……」
志穂の動きが一瞬止まった。
「おはよう」
僕は言った。また一瞬、戸惑いのような空気が流れる。だが次の瞬間――。
「壮……、おはよ」
はにかんだ笑顔で志穂は返してくれた。まるで白い花がほころぶような笑みだった。
僕は顔が熱くなるのを感じて早足で歩き出す。
「壮!! 待って」
志穂が僕を呼ぶ。けれど僕は歩く速度を緩めるどころかさらに加速させる。同時に胸を打つ心臓の音も早くなる。
――あんな娘に想われる僕は一体どんな人間なんだ……。
「ねぇー……」
志穂の声が遠ざかるのを聞きながら、僕はとりあえずリカバリーの第一歩を踏み出せたはずだと自分を鼓舞した。
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