第6話 学食にて

「ねえ、聞いた? 野口先輩とうとう神田さん落としたらしいって」

「聞いた、聞いた! こないだの日曜、夢の国ランドでイチャコラしてたらしーよね」

「あーあ……、イケメンも学年一美少女にとられたかー」

「えー? あんたまさか先輩狙ってたの?」

「ムリっしょ、うちらレベルじゃ」

「にしても、神田さんふったヤツ、バカだよねえぇぇ」

 ――うるさい。

「名前なんつったっけ?」

「お……き?」

 ――奥森だよ。

「まあ、どうでもいいか」

「あっは、だよね。それよかさ……」

 メシがまずくなる……。

 今さら、志穂が誰と付き合おうが僕には関係ない――。じゃなく、止める資格がない。

 僕はザクザクとカレーにスプーンを刺した。

 気配がする。僕の目の前に。

「違うの……」

 志穂……。まずいだろ……、こんなところで僕なんかに話しかけて。しかも内容!

「壮、ねえ聞いて」

「…………」

 僕は黙って立ち上がった。

「待って! ねえ、お願い! 聞いて!」

 縋り付くような志穂の声が背中に刺さる。胸がチクチク痛い。今僕はどんな顔をしてるだろう。

 学食を出て僕は校舎を出た。今の僕の顔を誰にも見られたくなかった。


 結局、僕は午後の授業をサボった。

 近くのゲーセンまで走って、ガラガラの店内をうろついて……。部屋には戦利品のぬいぐるみやらフィギュアやらが散乱している。

 離れる前は志穂と帰りに寄り道して遊んだ場所――。嫌でも思い出してしまう。いや、思い出したかったんだ、多分。

 だんだんと自分の気持ちの輪郭がわかりはじめ、それと同時に現状の分の悪さに絶望的な気分になる。

 ――くそっ! なっさけねえ!!

 床を思い切り殴り付ける。

「ちょっと! 今の音なあに?! お兄ちゃんどうしたの?」

 階下に響いた音に母が慌てて部屋に来る。

「ごめん。ちょっと重い物落としただけ」

「壮……、最近情緒不安定よね。まさか、学校でイジメにあってる?」

「ないよ……。大丈夫だから」

「隠さなくていいのよ? お母さんは壮の一番の味方だから!」

「だから、違うって……」

 ――そんなに不安定だったのか? 僕は……。

 母が暴走モードに入ると長引く。出て行ってもらうにはどうしたものか……。

「お母さん、お兄ちゃんはしいちゃんにふられたんだよ」

 いつ入ってきたのか妹の胡桃が余計なことを言い出す。やめてくれ――!

 それから三時間は母親から尋問を受けるハメになった……。

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