第5話 ふたりだけの秘密
夏休みはあっという間に過ぎた。高校一年の二学期が始まる。
「では、今から席替えするぞ」
担任の声が教室に響き、どこからともなく声があがる。
「よっしゃ!」
「このままがいい……」
「俺窓際」
僕はあの日から志穂としゃべってもいないし、目も合わせていない。とにかく、見ないよう聞かないようにしてきた。けれど……。
「この箱の中に番号札が入っているから、ひとりづつ引いていってくれ」
教壇の箱に手を入れる。
「…………」
「奥森、何番引いた?」
「27です」
「ツイてるなー! 教壇前じゃないか」
みんながどっと笑う。
――志穂は……。
彼女の両隣は佐伯夏子、茂木涼子……、出来過ぎだろ――というくらいに仲良しグループの女子に囲まれていた。そしてそれをうらやましそうに見る男ども。
志穂は僕への気持ちを一切隠さずにいた。あの日の僕は、彼女を教室から連れ出して誰もいない場所を選んで理由も告げずにただ離れることを一方的に押し付けた。
酷いことをしていた僕は、さらに酷いことをしたのかもしれない。そのせいなのか、見ないよう聞かないようにすればするほど志穂のことが気になっていった。
「志穂、隣ー」
「うん! ラッキーだよね」
笑顔で話す彼女は……あんなに綺麗だったか?僕は慌てて目を逸らし見ないふりをする。
見ないよう聞かないようなんかじゃない……、見えていたし聞こえてもいた。
僕が志穂を気にするのは同情からなのか?酷いことを重ねてしまったから。
彼女が気になるたびに自分に問いかけてきた。なのに答えなんか出なかった。
こうして物理的に完全に離れてみて、彼女が気になる気持ちは強くなるばかりだ。でも、どうしたらいいのかわからない。自分の本心すらわからない――。
――ガキだなあ……。
僕は自嘲した。
あんなに志穂は正直に、素直に僕を好いていてくれたのに……、僕ときたら。
ふと、視線を感じて顔を上げた。
「考え事? 奥森君」
今度の隣の席のクラスメイト辻村タカシが眼鏡越しにこちらを見ていた。
「ボクが隣になったから。ヨロシク」
「ああ、こちらこそ」
もう片方は――通称ガリコ、吉野小百合。成績優秀こちらもメガネ女子か。
「吉野もよろしく」
「ふ……ふんっ」
顔を赤らめてそっぽを向かれた。
――おーおー青春だね。
心の中で毒づいてから、また視線に気付く。僕にはわかっていたけどその視線の主に気付かないふりをした。
答えが出ないうちは……。
チャイムの音が教室に鳴り響いた。
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