第2話 初恋の人
わたしの名前は神田志穂。県立青葉ケ丘高校一年、いわゆる女子高生です。
「志穂ー、さっきの数学のノート写させて、お願い!」
友達のアヤメちゃんが小走りで近くに来る。多分また寝てたね、これは。
「アヤメちゃんバイトしすぎじゃない? 疲れてるんだよ」
「んーっ、疲れてはいるかな……、でも来月彼氏と旅行行く約束しちゃったからさ」
――――。
カレシ……素直にうらやましい。わたしにだって好きな人くらいはいるけど……。
わたしは隣の席で男子達とプロレスの話しで盛り上がる幼馴染みを目だけで見た。
――壮……。
奥森壮、幼馴染みでお隣さんで……わたしの好きな人。本人に自覚はないけどかわいい顔した癒やし系……とわたしは思ってる。
「志穂ー、ちょっと!」
教室の入り口から大声で呼ばれる。なっちゃんの声だ。
わたしは立ち上がって歩き出す前の一瞬、壮に目をやった。
目が、合った……。
「三年の野口先輩が放課後屋上で待ってるとさ」
なっちゃんがニヤニヤと言う。
「野口先輩ってバスケ部の?」
「そ! あたし女子バスなもんでお使い頼まれたのよ。校内三本指に入るイケメンだよ! うらやましい〜」
なっちゃんの腕がわたしの後ろから首に巻き付く。
「やっぱり美人にはイケメンからお声かかるのね、いいなあ」
「あは……」
何故かウットリしているなっちゃんを尻目に、わたしはちょっと困っていた。
――好きな人いるのみんな知ってるのに……、なんでこうなるんだろう。
「ちょっと……! 通れないんですけど」
同じクラスの矢田さんがイライラした調子で廊下から声を張り上げていた。
「ごめんなさい」
わたしとなっちゃんの間を割るように矢田さんが通る。教室に一歩入ったところで彼女は止まった。
「神田さん」
「はい?」
振り返る矢田さんのセミロングの髪が光を反射して艶っぽく揺れた。大人っぽくて色っぽい人……。でも……あまり良い噂を聞かない人。
「あなたのさ、奥森……奪っちゃおっかな」
「えっ」
突然言われた言葉にわたしは言葉を失った。
沈黙のまま見つめ合うわたしと矢田さん、なっちゃんがオロオロしてるのが見える。
「う……奪うも何も、壮はわたしのじゃないし、いきなりなんなの?」
プッと矢田さんが笑い出した。
「あははは! 学年一の美人の想い人をアタシが落としたらなんかオモシロイじゃん」
「おもしろいって……そんな理由で壮に近づかないでよ」
「……アタシからじゃなく、奥森のほうから近づいてきたら?」
「――――」
実はわたしは、壮に想いを告げたことがある。たしかあれは……中学に上がってすぐだった。でも、壮は言った。
「誰のことも今までそういう目で見たことない……」
男女を意識しはじめる時期に、わたしは失恋をした。のかな……。それでも、それなら……壮の初恋の人にわたしがなろう、そう心に決めた。簡単なことじゃないけど……。
「矢田さん、おもしろ半分で彼にちょっかい出すの、わたし許さないから」
精一杯睨みをきかせて彼女を見た。
「……おもしろ半分じゃなく、って言ったら?」
さっきまでのニヤニヤが消えて真顔の矢田さんがわたしの前にいた。
「一応、奥森に一番近い神田さんには言っておこうかなと思っただけ」
「それ……、どういう意味……」
唇の端を上げて笑うと矢田さんはそのまま教室の中に行ってしまった。
「志穂……、大丈夫? 顔青いよ?」
なっちゃんがわたしを心配して背中をさすってくれる。
自分でも驚くくらい、わたしは動揺していた。
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