ぐーたら警察、結城真尋をリバーシで負かせろ!の巻 その1

「こ、こいつ、いつの間に……」

 いつものような学校の空き教室(ぶっちゃけ、ここは空き教室だらけだが)。

 ヒマリがスマホを見ながら独り言をしていると、この教室までやってきた雪音が首を傾げた。

「どういうこと?」

「いや、別に。ちょっと面倒くさいことになっただけ」

 そう言いながら、ヒマリはそっと視線をそらす。雪音はくすっと笑いながら、必死で視線を避けるヒマリの顔をじっと覗き込んだ。

「ヒマリちゃんの顔を見ると、ずいぶんやっかいなことが起きたみたいだけど?」

「……まあね」

 結局、雪音の方に顔を向きながら、ヒマリはため息をついた。はっきり言って、今、ヒマリは少し参っている。あまりバレたくはなかったが、どうしても雪音には嘘がつけなかった。


 すべての原因は、ヒマリについさっき、ライングで送られてきたメッセージにあった。

 ーあんた、いつの間に彼氏なんかできたの? 紹介してよ~。

 「あいつ」からのメッセージを確認して、ヒマリは目の前が暗くなっていくような錯覚を感じた。つまり、早くも健太郎のことがバレてしまったという話だが、その「バレた相手」がやっかいなのである。

 ヒマリは正直、あいつがかなり苦手だった。嫌いなわけじゃないが、あまり相性がよくない。相手はまったくそう思っていないらしいが。


「ああ、あの警察さんね」

 すでにそういう背景を知っているため、雪音はヒマリから事情を聞くとくすくすと笑った。まあ、こいつにとっては、まったくの他人事である。

「まあ、あいつ以外にはいないもんね」

 そんなことを思いながら、ヒマリは不満げな顔をする。

 そういや、最近は自分のことで忙しかったため、不良を成敗することもなかったし、従って、警察のお世話になったこともなかった。あいつ、なぜかとてもヒマリを気に入っているので、今頃だいぶ寂しがっているのだろう。こっちとしては余計なお世話なんだが。

「えっと、誰の話なのですか?」

 その時、ちょうどヒマリと一緒にこの教室にいた沙絵がこんなことを聞いてきた。ヒマリだっていつかはこの時がやってくると思っていたが、まさか、ここまで早いとは予想していなかった。ヒマリはぶつぶつしながら、やがてこう言い出す。

「近くの交番にいる警察よ。めっちゃぐーたらな」


 結城真尋ゆうきまひろ

 この古井ふるい市の警察の一人。女性。少なくともヒマリよりは年上。姉御肌。ついでに、警察の者だとは思えがたいくらいズボラな性格。ぶっちゃけ、私生活が気になるレベル。

 だが、その職業意識だけは本物だ。なんだかんだ言って、これは長い間お世話になったヒマリが保証できる。

 しかし、この警察のいちばん悪いところは、ぐーたらでもなんでもなく、なぜかヒマリのことをとても可愛がっているということだ。まあ、もちろん誰かに好意を寄せられるのは悪い気分じゃない。それは確かだ。

 ただし、こいつの場合、なんて言えばいいのだろう、ともかくウザい。こっちの必要以上に愛してくれるおかげで、ヒマリはもう勘弁してほしい気持ちでいっぱいだった。羽月といいこいつといい、なぜかヒマリは、こんなやつらに好かれる傾向があるらしい。まったく、どんだ迷惑だ。


 で、ヒマリがこれに悔しがっているのにはまた理由がある。

 ヒマリも真尋も、かなりの勝負好きだ。上手いのか下手なのかはともかくとして、勝ち負けを決めるのが大好きなのである。

 それなのに、ヒマリはなぜか、このぐーたら警察に勝ったことが滅多にない。それを面白がっている真尋はだんだんヒマリと勝負をしたがるのだが、もちろん、負けてばかりであるヒマリにはまったく楽しくないものだった。

 あたしだってあいつに勝てたい。ヒマリは心から、そう思っているわけである。


 あんなやつに健太郎が知らされるだなんて。絶対にからかわれることに決まっている。

 時間の問題ではあったといえ、ヒマリは非常に頭が痛かった。だが、いつかは通るべき道だということも明らかである。今更知らんふりしたって、この街に住んでいると絶対に顔を合わせるハメになるから、意味なんてなかった。

 ーまったく、なんであたしが。

 結局、ヒマリはぶつぶつしながらも、健太郎といっしょに、あいつ、真尋のいる交番へ行くことにした。


 で、ヒマリがどんな「健太郎」と一緒に行ったかというと……。

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