女は度胸!?
翌日、恵梨は少し早めに起きていつもよりかわいい服を選んだ。
学校を休むなんてとんでもない、今日登校せずしていつ行くというのだ。
今日はミニスカート。レギンスは、なし。秋になってそろそろ冷える日もあったので、オーバーニーソックスはあわせたけれど。
鏡で自分の姿を確認して、恵梨は、よし、と気合を入れる。
昨日、梨花に泣きながらすべて話した。
梨花はそれを全部聞いてくれて、「大丈夫。大丈夫だから伝えちゃいなよ」と背中を押してくれた。
電話で話している間に恵梨がずいぶん落ち着いたことを知られたのだろう、最後には「女は度胸だよ!」と梨花に言いきられた。
恵梨はそんな場合ではないというのに「いや、それって女は愛嬌ってやつ……」と突っ込んだのだが、慣用句があっているかなどどうでもよく、今必要なのは梨花の言う通り『度胸』だった。
言うのだ。今度こそ、はっきりと。
そのために、今日は普段よりかわいい格好をして『戦闘着』とする。今更洋服で左右はされないと知っていたけれど、そのほうが自分に気合が入る。
頑張れ。
自分に言い聞かせて、恵梨は登校した。
それでも教室で志賀原を見たときは、心臓が飛び出しそうになってしまったけれど。
目が合っただけで、喉奥まで心臓は跳ね上がってどくんどくんと速い鼓動を刻む。
「おはよ」
先に言ったのは志賀原だった。
「おはよう」
なんとか言った。
しかしそのあとは沈黙になってしまう。
どうしよう。
恵梨は困った。
まさかこんな場所で言うわけにはいかない。けれど昨日のことにまるで触れないのも不自然だ。本当なら、朝、鉢合わせる予定ではなかったのだが。
「……あのさ」
口火を切ったのは志賀原だった。恵梨はびくっとしてしまう。
なにを言われるのか。
身がすくんだのだけど。
「明日空いてる?」
志賀原が言ったのは、昨日のこととはまるで関係のない、少なくともそう聞こえることであった。
「えっと……空いてるけど……」
空いているのは本当だったので、恵梨はそのまま言った。
でも明日は土曜日だ。学校はもちろん休み。休みの日に、なんだろう。
「良かった。じゃ、明日ちょっと用があるから、また集合とかは連絡する」
それだけ言って、志賀原は、サッと自分の席のほうへ行ってしまった。
うん、とだけ了承の返事をして恵梨はその後ろ姿を見た。
なんだか拍子抜けした。
明日会うことになってしまった。休みの日だというのに。
もしかしてそこでなにか言われるのだろうか?
不安になったのだけど、同じくらい期待が胸に溢れた。
しかしもうひとつ不安になった。
明日、約束して志賀原はそのまま去ってしまった。
ということは、今日どうこう言わないほうがいいのだろうか?
……???
恵梨の頭の中は疑問符でいっぱいになってしまったのだが、そこへうしろから、ぽん、と肩に手が乗せられてびくりと震えあがってしまった。
「おはよっ」
そこにいたのは梨花だったので、恵梨は一気に力が抜けた。
「今日かわいいね!」
開口一番、梨花は恵梨の格好を褒めてくれた。もちろんかわいい格好をしてきた理由はわかっているだろう。
「どうしたの?」
恵梨が変な顔をしていたのはわかったらしく、梨花は首をかしげた。
「朝からなんかあった?」
「あー……なんかあったっていうか……?」
聞かれたけれど、はっきり返事ができなかった。そんな恵梨を教室から連れ出して廊下のすみに連れていって、梨花はすべての事情を聞いてくれたのだった。
そして言った。
「つまり勝負は明日ってことだね」
ひそひそと言い合う。
「た、多分」
恵梨もわかっていたのでそのまま肯定した。
「今日と同じくらいかわいい格好していきなよ。明日はあったかいって言ってたし」
「そ、そうする!」
「うん! いい感じじゃん。応援してるから!」
「ありがとう!」
そのままその日は何事もなく終わってしまって。
夜に志賀原からメールが来てまたどきりとしたのだけど、それは単なる明日の待ち合わせだった。
待ち合わせというか……家に来てほしい、というもので。
志賀原の家に?
その事実だけでどきんとしてしまったけれど、なにかあるのだろう。
「わかった」と返信すると「明日は母さんもいないから、手土産とか気にしないで来てくれ」と返ってきて、そして「じゃあおやすみ」でおしまいになった。
明日の予定もしっかり決定したので、今夜は明日のために早く寝てしまおうとベッドに入ったのだけど、もちろん寝付けるはずなどなかった。
明日、きっとなにかが変わる。
それが良い方向へなのか、悪い方向へなのかはわからないけれど。
一度訪ねたことがあるとはいえ、好きなひとの家に行くのは緊張してしまうし、それに決めていたので。
今日はなんだか不思議な誘いをされたので言いそびれてしまったけれど、明日こそ自分の気持ちを伝えると。
布団の中で何度もごろごろ寝返りを打ってしまった。
頭によぎるのは、もちろん志賀原だった。
笑顔も、困った顔も、嬉しそうな顔も、照れた顔も、そしてくす玉の件で見たような、ちょっとむすっとした顔さえも。もうはっきり頭に思い描ける。
そしてそのすべてが好きだと思う。
春に同じクラスになってから、ずいぶん仲良くなれた。
仲良くなって、彼の良い面をいっぱい知っていって、それで恋をした。
はっきりとひとを好きになったのは初めてのことだったけれど、それはとても幸せな気持ちだということも知った。
そんな気持ちを教えてくれた志賀原なのだから、たとえ告白してうまくいっても、ダメでも、梨花のように「伝えたことを後悔しない」と言いたい。
だから後悔しないように、ちゃんと言う。
決意はしたもののやっぱり恥ずかしさはどうにもならなくて、その夜は多分ほとんど眠れなかった。
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