第44話 買い出し
日用雑貨からDIY用の工具、園芸用品にペットコーナーまで、ここに行けば欲しいものは何でも手に入る! 我が町のホームセンターその名も『オーラン』!
「いつ来ても心踊る場所ですね」
「弟月君? なんでテンション上がってるの?」
「お姉さんにはわかるよ! 男の子だもんね!」
そう、男の子ならわかるはず! 別に買わないけど、工具とか見てるだけで、ちょっとワクワクしませんか? しません? そうですか……
「それで、まず何処から見て行こっか?」
「けっこう広いんだね、私来たことないから迷いそう」
「結ちゃんはお子さまですね〜」
「そうなの、私、お子様」
「おょ?」
いつもなら、可愛いじゃれ合いが始まりそうなところだったけど、今日の新妻さんは姉帯さんのからかいを、華麗にスルー! 絶対言い返してくるだろうと思っていた姉帯さんも、そんな新妻さんの反応に戸惑ってるみたい。
「ということで迷子にならないように弟月君は私と手を繋いでいるように!」
そう言ってスッと手を握ってくる新妻さん。しかも、指と指を絡ませてきて……これって完全に恋人繋ぎでは⁉︎ もっと過激なスキンシップも多いふたりだけど、ぼくがそんなことに慣れるはずもなく、柔らかい手の感触にドキドキしっぱなしだ。
「あぁあ〜⁉︎ 結ずるい! 弟月君、私とも手を繋いで」
そんな新妻さんの行動に慌てて駆け寄ってくる姉帯さん。
「あれ〜明日香は私のことお子様ってバカにしてなかったぁ?」
「くっ、結、恐ろしい子。それならお姉さんにも考えがあるよ!」
そう力強く宣言して、何故かぼくの前にしゃがむ姉帯さん。そうすると当然、ぼくが姉帯さんを見下ろす形になるんだけど、ワイシャツの上のボタンを何個か開けている姉帯さんの胸元は上から見るとオープンで、谷間がきっかり見えていた。
うん、これはよろしくないですね。普段は身長が高い姉帯さんを見下ろすことなんてないから気付きませんでしたよ。そんなふうに冷静に分析しているフリをして、柔らかそうな谷間から目を離せないでいるぼくに、姉帯さんは……
「……お兄ちゃん、あすか、迷子になっちゃうから手つないで?」
お、おに…お兄ちゃん、だと〜⁉︎ 急に幼くなったように舌足らずな感じで話す姉帯さん。普段は年上っぽい妖艶な雰囲気を醸し出している姉帯さんが、幼児退行しちゃったみたい。
その身体つきからでる妖艶さはまったく消えていないけど、逆にそのアンバランス感が、ぼくに何かを目覚めさせてしまいそうで、ぼくは黙って空いている方の手を差し出したのでした。
派手なギャルに挟まれて、尚且つ手を繋いでお買い物をすれば、それは目立つなという方が無理な相談で、ぼくたちは店内ですれ違う人たちの注目を集めていた。
「ママァ、なんであのお兄ちゃんは、こどもでもないのに、お姉さんたちに手をつないでもらってるの?」
「男なんていつまで経っても子供なのよ」
聞こえて来る話題は、大抵がぼくたちのことで、いらない注目度は抜群みたいだった。というか、ぼくが子供扱いされてますね。
「はは、はぁ、今の親子の会話聞いた? ぼくが子供扱いされてたね」
「うんうん、お兄ちゃん、あすか足つかれちゃった……おんぶして?」
「えぇええ⁉ お、おんぶって……」
お子ちゃま演技に身が入ってきた姉帯さんから、なんともアグレッシブな提案がとんでくる。もし、ぼくが姉帯さんをおんぶしたら……背中に感じる暖かい温度、そして押し付けられるふたつの柔らかな感触。姉帯さんの大きな胸が、ぼくの背中に形が変わるくらい密着する。そしてぼくが持つのは、姉帯さんの肉付きのいいスベスベの太ももだ。今は黒く日焼けして健康的な姉帯さんの重量感ある太ももをガシッと掴む。その瞬間、僕の手は指先から柔らかい感触に包まれて……
はっ⁉ 今、完全によろしくない妄想に浸ってしまった。あのまま想像していたら、妄想の世界から帰ってこれなくなってしまうところだった。というか、人目につくところで、姉帯さんをおんぶなんて、ぼくにはできそうにない。
「姉帯さん、おんぶはさすがに……」
「そうよ明日香!」
いいタイミングで新妻さんからも助け船が来た。流石しっかり者の新妻さん、ぼくはいつも助けてもらっていますよ。さぁ、姉帯さんを止めてください!
「弟月君は私を先におんぶするから、ちょっと待ってて」
はい、そうきましたか~。あなたもでしたか新妻さん。一瞬前のぼくの貴女への評価を返してくださいよ。
「え~あすかが先だよ。結はおねえちゃんなんだから我慢して」
「誰が明日香のお姉さんになったのよ。私の方が小さいし、私が妹キャラでしょ」
「まぁまぁふたりとも、その辺で……」
「「勝負よ‼」」
「ちょっ⁉」
こうして、おんぶをかけたジャンケン大会が突如として開催された。勝てばおんぶしてもらえて、負けたら買い物中はずっとおんぶしていなければならないという、いろんな意味で過酷なゲームだ。そして、「弟月君だけおんぶするのが決まってたら可哀そう」という新妻さんの発言で、何故かぼくもジャンケンに参加することになっていて……姉帯さんも納得していたけど、ふたりとも、ある可能性を考えていないのかな?
こうしてジャンケン大会の火ぶたが切って落とされた。いつの時も勝負は一瞬である。
「「「じゃんけ~ん」」」
「「「ポン!」」」
……たった2回の勝負の結果、おんぶする者新妻さん、おんぶしてもらう者姉帯さん、という結果に決まり、ふたりはとてもげんなりした顔をして見つめあっていた。
「弟月君におんぶしてもらうお姉さんの計画が、何故こんなことに……」
「明日香が妹キャラは似合わないってことじゃない、ていうかおんぶできるかな私」
「ちょ、酷くない⁉ お姉さんはそんなに重くありません!」
姉帯さんはいい意味で重量感たっぷりです。その後、渋々おんぶをしたふたりだったけど、新妻さんには少しキツかったみたいで、思わぬ事態に⁉
「くっ……やっぱり重い」
「結ひど~い、ほら、落ちちゃうからもっと腰まげて」
その言葉に新妻さんがグイッと腰を曲げる。そうすると必然的に姉帯さんの腰は上に押し上げられて、僕の目の前には、短いスカートに隠されていたムチムチの姉帯さんのお尻がこんにちはしていた。それだけじゃない、新妻さんのスカートが姉帯さんとの身体に巻き込まれて捲り上がり、新妻さんのお尻までこんにちはしていた。ふたりのお尻を隠しているパンツは、ひもにしか見えなかった。
「姉帯さん! 新妻さん! スカート短いからパンツが、ていうかお尻が見えちゃってるから⁉」
「おょ……ホントだ。どう弟月君、お姉さんの下着、興奮する?」
「わ、私のもどうかな弟月君、興奮、する?」
「そんなこと聞かないでいいから、早くお尻隠してー‼」
なんとかふたりのお尻は他の人には見えなかったと思う。まさか、ただの買い物でここまで心が疲労するなんて、委員長、ぼく頑張りましたよ。
ちなみにお使いはしっかりとこなしました。
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