第45話 学校でお泊り
着々と文化祭の日が近くにつれて、準備にも熱が入る。徐々にクラス全体が一体感に包まれていき、協力して準備が進んでいった。そうしてついに、今日は文化祭前日だ。各クラスが仕上げに追われていて、楽しいながらも緊張感のある空気が学校に満ちていた。
文化祭前日はまる一日を準備にあてる。さらに学校に申請して、許可を貰えば、全員は無理だけど、泊まり込みで準備をすることもできるのだった。
例にもれず、ぼくたちのクラスも許可をもらい、今日は学校に泊まり込みで準備をすることになっている。泊まり込み用の寝具もあり、シャワーは部室棟にあるシャワー室を開放してくれていた。
ぼくたちのクラスは、そこまで準備が切迫した状況に追い詰められているわけじゃないから人数も少数精鋭だ。ノリノリの姉帯さんと新妻さん、誘ってもらった僕、監督役の委員長の計四名で最終チェックをすることになった。
下校時間までにみんなが頑張ってくれていたから、余裕でなんとかなりそうである。放課後になって帰っていく皆を見送る。今日はファミレスに集まって前夜祭をするらしい、居残りを買って出た僕たちは前夜祭に参加はできない。
だいたいの人は申し訳なさそうに感謝しながら帰っていったけど、一部の男子からは怨みのこもった視線を向けられてしまった。まぁメンツを考えたら仕方ないかも……。
「いいんちょ、メイド服ここでいいよね?」
「いんちょー!暗幕の位置直したけど、これでオッケ?」
「うん、いいよ!暗幕も大丈夫かな、ありがとう!」
すっかり外も暗くなった頃、僕たちは教室で備品の整理をしていた。姉帯さんと新妻さんは、買い出しの件で委員長のことが気に入ったらしく、今では真面目に委員長のお手伝いをしている。
キリッとした顔つきで姿勢よく、黒髪をポニーテールにしている委員長には、誰もが真面目そうな印象を持つと思う。実際真面目なんだけど気の強そうなところもあって、ふたりとは案外気が合うのかもしれない。
「しっかし、これだけの衣装をよく集められたな」
部屋の隅にある人数分のメイド服を眺めながら委員長を感心したように姉帯さんに話をふった。
「まぁね、お姉ちゃんの友達が趣味で持ってるらしくて、前は浴衣も借りたんだよ」
「ね、おかげで弟月君と夏祭りにも行けたし、いい人だよね、お姉さんのお友達」
夏祭りを思い出しているのか、しみじみと頷いている姉帯さんと新妻さん。ぼくも一緒になって夏祭りを思い出す。というか、ふたりの浴衣姿を思い出す……いいものでした。お姉さんのお友達さんには改めて感謝。
「え、なに?三人で夏祭り行ったの?両手に花?」
「うん、ていうか、ぼくがふたりに連れて行ってもらった感じだけどね」
「いや~いい夜でしたね、結さん。弟月君のあんな姿やこんな姿まで」
「そうですね~明日香さん。天国にいたような気持ちになれたね」
ぼくたちの話を聞いて、何を考えたのか委員長の顔が赤くなっていく、ナニを想像したんですか委員長。
「ね、ふたりは弟月君とどこまでいったの?」
「え?そりゃもう行くところまで、弟月君のシャワーに突撃したし」
「姉帯さん、それ未遂でしょ」
「私なんか、同じベッドで一夜を共にしたよ。朝チュンよ朝チュン」
「寝ぼけて入ってきただけなんだよね?そうだよね新妻さん?」
「す、すごッ……やっぱ進んでるんだ。私も……」
顔を赤くしたままブツブツと言っている委員長の勘違いは加速しているような気がする。そんな委員長の様子を見て、何故かはしゃぎだす姉帯さんと新妻さん。
「なになに、もしかして委員長、恋の悩みとか?」
「マジ⁉ 困ってるならうち等に相談してよ!力になるよ、ね、弟月君!」
「え?う、うん。僕たちで力になれるなら、でも明日の準備……」
キャッキャウフフと騒ぎ出す女子三人。委員長も普段の気の強そうな様子が微塵もなく、ふたりに流されて、すっかり恋に恋する乙女みたいになってしまっている。あの、明日の準備は……。
「べ、別にね、好きな人がいるわけじゃないんだけど、私って男っぽいってよく言われてさ、やっぱりもてない女なのかなぁとかね、考えるわけ」
「いやいや、委員長モデルみたいにスタイルいいじゃん!絶対モテるよ!」
「うんうん、なんか品格あるよね?弟月君もそう思うよね?」
「え?ぼく?」
話を振られると思っていなかったから動揺した。女の子たちのそういう会話に含まれると、なんか困る。それでも、期待のこもった目で見てくるふたりと、何だかうるんだような瞳で見てくる委員長を前にすると、何かいいことを言わずには終われない気がして、一生懸命に考えた言葉を振り絞る。
「えっと、委員長は、すごく魅力的だと思うよ。カッコいい女性ってイメージだったけど、今みたいに乙女のような可愛らしい姿もあって、ギャップっていうの?感じました。すごく可愛らしい女の子なんだなぁって、はい」
「……」
「……」
「……」
モジモジしながらも頑張って言ったらこの空気ですよ。みんな黙っちゃってもう、ホントすいません。二度と言いませんからセクハラとかで訴えないでください。
「ぁ、ありが、と……」
「あ、どういたしまして……」
なんだか委員長がモジモジしながら、ぼくを見つめてくる。顔を赤らめながら上目遣いで見つめてくる委員長の可愛さは、破壊力抜群だった。一度目があったらもう、そらせない。ぼくも自分の顔が熱くなっていくのがわかる。そのまま動けないでいるぼくに、委員長が段々近づいてきて……
「はいはい!ストップ!そこまで!」
「いんちょーイエローカード!もう一枚で退場です!」
姉帯さんと新妻さんの華麗なるインターセプトが発動!危なかった、何がとは言わないけど、あのままだったら何か危なかった気がする。
「ちょ⁉ 今のいいとこだったのに!」
「え~弟月君は私たちのものですので、愛でる会に入りたければまず、入会費を」
「何それ⁉ そんな会いつ作ったの新妻さん⁉」
「あと、入会しても基本的に、おさわりは結とお姉さんだけの特権なので」
「おさわりとかいかがわしい言い方しないで!」
「……いくらですか?」
「払わないで!」
教室に響き渡るぼくのツッコミ。
こうして喋るだけで夜は更けていく、明日の準備は……なんとかなるといいなぁって、流れ星に祈っておいた。
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